がじまん第468号-1(Essay 539)

沖縄エッセイスト・クラブ会員

2024年12月10日 00:00

ブルーシール
稲田隆司

 福岡出張時、中洲を愛する福岡の先輩に「良い店を紹介しちゃる」と、数件紹介された。一軒目は御曹司の経営するキャバクラで品の良い店であった。側に座したホステスさんが看護師さんで、福岡の大きい病院に勤務しているという。内緒ですけどねと笑い、がんばれよと励ました。
 認知症高齢者のリハビリに、看護師さんがホステスをするお店があり得るのではないかと考えたことがある。夕刻、一定の時間に施設からお店に送り、バイタルチェック、安定を確認し、ノンアルコールで、カラオケを唄ってもらう。現役時代の様に、社長、専務と呼び掛け楽しんでもらい、「お迎えです」よと送迎する。
 以前、研究会で、暴れて手をつけられなかった認知症高齢者に朝、スーツ、ネクタイに着替えてもらい、施設の机を案内し、社長と呼び掛けると安定したという報告があった。人の大切な記憶は人を支えると学んだ。
 二軒目、三軒目、一見(いちげん)では分からないお店の後、ピアノラウンジに入った。先輩の何十年馴染みの店だと。オーナーママに、島地勝彦先生が中洲に素晴らしいピアノラウンジがあるとエッセイに紹介していましたがと、問うと、私共ですよと微笑んだ。
 島地さんは、週刊プレイボーイ100万部を売り上げた敏腕編集長で、柴田練三郎、今東光、開高健と文豪と懇意にし、数々の企画で世に問いかけた。私も高校か大学時代、今東光の人生相談を週刊プレイボーイで読み、人生の極意は「遊戯三昧」の言に影響を受けた。ママは、島地先生の話は嬉しいと帰り際に100枚程の先生のエッセイのコピーを渡してくれた。日刊デンダイの切り抜きである。
 私はある時期から出張先でお世話になった店にブルーシールのアイスクリームを送る事がある。数千円で数十個あり、店のスタッフに配る事が可能で好評である。意外に他府県の方はブルーシールを口にする事が少ない。今回もお送りした。様々に返礼を頂いた。その後、再び中洲を訪ねた際、キャバクラのスタッフが「ブルーシールの先生ですね」と声をかけてきた。そうか、ブルーシールの先生かとうれしく感じた。
 ピアノラウンジ、セニョールリオのママからは、島地勝彦先生の、私の名前が記されたサイン本を頂いた。『時代を創った怪物たち』三笠書房。古今東西の偉人・賢人・人たらしへの手紙として、アル・カポネ、後藤新平、開高健と、100名への想いが記されている。ちなみに開高健は、沖縄出張の妻に悩まされた
「尊敬するすべての怪物たちへ捧ぐ 偉大な功績を遺した傑人たち」は、いずれもその心に、善人と悪人を宿す怪物であった。サイン本には私に向けて「あなたの内なる怪物はお元気ですか」とあった。ありがたい問いで、今後も反芻していくが、多分私の怪物はブルーシールが好きだろう。

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