2024年11月10日
がじまん第467号-1(Essay 537)
ヘッドロックの宴
新築の建物が完成した際に行われるのが「落成式」である。一般住宅の棟上げ式では、「ヒージャー汁に刺身」のごちそうが関係者に振る舞われる。今では、その光景もあまり見なくなった。ヒージャーが苦手な人もあり、他にもごちそうの種類がいっぱいあるし、牛汁だって美味しいのだ。
あるレストランの設計に携わった時のことである。大概は開店する前に、店の完成を祝い「プレオープン」なるものを行い、スタッフの訓練も兼ねて顧客関係者を招待する習わしがある。さらにその前に、建設に携わった関係者を店主が招待し労うのである。
その時のこと、最初は店主のお礼の挨拶の下に、十数人がテーブルに畏まって耳を欹てている。飲食が進むにつれ宴もたけなわ、数カ所で朗らかなユンタクが始まり、テンションが上がり声に反映されてくる。完成させたという達成感が其々の気持ちを高ぶらせていく。店主が細やかな配慮で、一人ひとりに言葉をかける。建設会社のいつも笑顔の中年の総務・経理担当のご婦人(以下M)もいる。会食の前にテーブルを並べたりして、行き届いた心遣いはさすが。
みな朗らかに飲んで食べてユンタクして、この上ない幸せ感がテーブルのまわりに漂っている。至福のひと時が細かく連続している。と、その時。
店主「〇××▽●△●?」
M「なんですって? もう一回言ってみろ! ふざけたこと、言いやがって! お前は店主だろう? 私を何だと思ってるんだ。店を繁盛させる気があるのか?」
店主「まあまあ、落ち着いておちついて」
M「何ぃー、ふざけるんじゃないよ●×△/▽ふん」
そんなやり合いが続いた後、Mが突然、左側に座っていた店主の頭部を左腕で…あのプロレス技のヘッドロックで締め上げると、右手のげん骨で店主の額を打ち続けた。同じ個所に命中しているので、ミルミルウチニ額は赤く染まり血がにじんだのである。
他の席では、明るく朗らかに会話が弾んでいる。ご婦人を止める者は誰もいない。仲裁する様子もない。 気が付かないのか? 否、気が付いているはず。はず、はず。いつの間にか、またもとの状態に戻ったので、ボクは胸をなでおろして、退席したが、その帰り道、どうも納得がいかない光景に思いをはせていた。
翌日のこと。店主が会社に現れたという。額には絆創膏が貼られていた。
M「昨日は慰労の席を設けて頂き有難うございました。どうしたんですか? その額は」
店主「貴女に、ヘッドロックされて打たれたんですよ」
M「ああ、そうでしたか? すみませんでした。ある時点からあまり憶えてなくて。新しい絆創膏に貼り替えましょう」と言いつつコーヒーを出したそうな。
なんだか、すがすがしい気持ちになってきた。信頼関係が心から築かれている人たちに。酒ぐせもまるごと抱え込んで。
ローゼル川田
新築の建物が完成した際に行われるのが「落成式」である。一般住宅の棟上げ式では、「ヒージャー汁に刺身」のごちそうが関係者に振る舞われる。今では、その光景もあまり見なくなった。ヒージャーが苦手な人もあり、他にもごちそうの種類がいっぱいあるし、牛汁だって美味しいのだ。
あるレストランの設計に携わった時のことである。大概は開店する前に、店の完成を祝い「プレオープン」なるものを行い、スタッフの訓練も兼ねて顧客関係者を招待する習わしがある。さらにその前に、建設に携わった関係者を店主が招待し労うのである。
その時のこと、最初は店主のお礼の挨拶の下に、十数人がテーブルに畏まって耳を欹てている。飲食が進むにつれ宴もたけなわ、数カ所で朗らかなユンタクが始まり、テンションが上がり声に反映されてくる。完成させたという達成感が其々の気持ちを高ぶらせていく。店主が細やかな配慮で、一人ひとりに言葉をかける。建設会社のいつも笑顔の中年の総務・経理担当のご婦人(以下M)もいる。会食の前にテーブルを並べたりして、行き届いた心遣いはさすが。
みな朗らかに飲んで食べてユンタクして、この上ない幸せ感がテーブルのまわりに漂っている。至福のひと時が細かく連続している。と、その時。
店主「〇××▽●△●?」
M「なんですって? もう一回言ってみろ! ふざけたこと、言いやがって! お前は店主だろう? 私を何だと思ってるんだ。店を繁盛させる気があるのか?」
店主「まあまあ、落ち着いておちついて」
M「何ぃー、ふざけるんじゃないよ●×△/▽ふん」
そんなやり合いが続いた後、Mが突然、左側に座っていた店主の頭部を左腕で…あのプロレス技のヘッドロックで締め上げると、右手のげん骨で店主の額を打ち続けた。同じ個所に命中しているので、ミルミルウチニ額は赤く染まり血がにじんだのである。
他の席では、明るく朗らかに会話が弾んでいる。ご婦人を止める者は誰もいない。仲裁する様子もない。 気が付かないのか? 否、気が付いているはず。はず、はず。いつの間にか、またもとの状態に戻ったので、ボクは胸をなでおろして、退席したが、その帰り道、どうも納得がいかない光景に思いをはせていた。
翌日のこと。店主が会社に現れたという。額には絆創膏が貼られていた。
M「昨日は慰労の席を設けて頂き有難うございました。どうしたんですか? その額は」
店主「貴女に、ヘッドロックされて打たれたんですよ」
M「ああ、そうでしたか? すみませんでした。ある時点からあまり憶えてなくて。新しい絆創膏に貼り替えましょう」と言いつつコーヒーを出したそうな。
なんだか、すがすがしい気持ちになってきた。信頼関係が心から築かれている人たちに。酒ぐせもまるごと抱え込んで。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん