沖縄エッセイスト・クラブ

シャッターチャンス

　中学校の同期生二十名で、友歩会という親睦会を二十年以上続けている。毎月一回の定例会を持ち、近況報告、県内外の旅行、グラウンド・ゴルフ、パーク・ゴルフ等々を伸さんというリーダーを中心に幹事がアイディアを凝らし多彩な活動をしている。
　一昨年、十四人のメンバーは一泊二日で東村のバンガローに行った。前の晩は少し天気が気になったが、朝起きてみるとさわやかな秋晴れ。朝食後、グラウンド・ゴルフ場へ行く。　
　木々の間を縫って起伏にとんだグリーンが広がり、身も心も癒される空間だ。ゲームの準備も整い、いよいよ開始。運動音痴の私は、きわめて下手で四回か五回ぐらい打ってやっとホールに入る始末。ボールを打つのが弱すぎるのかと思い、満身の力を込めて強く打ってみたら、ボールは勢いあまってとんでもない方向に飛び、バウンドして藪に転げこんでしまった。
　やてやれと思いながら藪に入り、ボールが転げた辺りをかき分けると、何とそこにとぐろを巻いたハブがいるではないか。それほど大きくはないが、鎌首をもたげ、こちらを見ている。「待てよ、これは無毒のガラシーバーではないか」と、怖さを忘れて頭を見たら、なんと三角形。体の表面の模様も間違いなくハブである。「これは素晴らしい。こういう場面にはめったに出会えない。絶好のチャンスだ」とドキドキしながら、首から下げていたカメラで写真を撮りまくった。私が藪からなかなか出てこないので、近くの友人たちが駆けよって来て、とぐろを巻いたハブにびっくり仰天していた。
「危険だから殺そうか」と私が言ったら、「いや、見逃してやれ」と、リーダーの伸さんが穏やかに答えた。「見逃したら誰かが被害に遭うのじゃないの」と私が言った途端、ハブはさっと藪の奥へ消えてしまった。
あまりにも鮮やかなハブの行動に、一同は呆然として声もでなかった。本当に今ここにハブがいたのと思うほど、あっと言う間の出来事だったが、私のカメラには数枚の素晴らしいハブの写真が残った。
　どれどれと写真を覗き込んだ友人達は「こんなにハブに近づいて、恐れもなく、よくも写真を撮ったね、噛まれたらどうするの」とか、「やっぱり節ちゃんはちょっとおかしい」などと言ったが、それほど接写したわけではない。ズームで撮ったので、大きく鮮明に写っただけなのだ。それにしてもハブが準備してくれた素晴らしいシャッターチャンスだった。