2017年12月20日
がじまん第372号
ひとり笑い
夕刻近く、整形外科のリハビリに行った。隣の小学生連れの親子が呼ばれ、ドアの開いていた事務室へスッスッと入っていった。看護師たちはびっくりして、診療室へ呼び返した。あっという間のことであったが、ひとり笑ってしまった。
立秋が過ぎた頃、真っ赤な木綿のコートを引っ張り出し、洗濯しておこうと張り切った。民族調の手染め風だし、色落ちすると判断したが、なまけ癖がつき洗濯機を回した。案の定、主人のアンダーシャツ、息子のゴルフウェアが薄ピンク色に染まった。「いい色に染まったものだ」と、ひとり笑うしかない。主人には見せられないが、息子には「いい色じゃない?」と見せると、「恥ずかしくて着られないよ、捨てて」と一言。やっぱりだめかと落ち込んだが、エイッと襟を切り捨て、袖丈を短く、裾も私の着丈に切り落としミシンをかけた。「ブラウスの一丁上がり」と、一人ほくそ笑む。
うちの男性(主人と息子)は二人ともゴルフウェアしか着ない。しかも試供品や様々なメーカーのウェアを着るので、どれが誰のものか判断が難しい。ラウンドに出れば洗濯物は山のようで、取り込むとき、この色はヤング、この色は爺臭いと分別し、それぞれの部屋に掛けておくのだが、いつの間にか「これは俺のではありません」と言わんばかりに外されている。仕方なく襟の内側にヤングのY、父のTと印すことにした。名前のイニシャルではなく、Tなのには訳がある。ある時、どう見ても若者仕様だと息子のところへ。しかしおやじのものだったらしい。次に洗濯物を干すとき、内側に文字のようなものが記されていた。縦にしたり横にしたり…読めたのは「父」という文字だった。可笑しくて大笑いをし、Tに決めた。
年を取って、私には高くなってしまった勝手口は、階段にして手すりもつけてある。ヨチヨチ歩きで心配な一歳半の孫に「しっかりつかんでおりるのよ」と言いながら、私はいつもの体勢のバックで下りた。すると孫も体を回転させ、バックで下り始めたではないか。なんという素直さ、行動力の速さに圧倒され腹を抱えて笑った。「拓ちゃんはまっすぐに下りていいのよ」と言ったものの、私の言動が一致しないのを考えされられた。
金子みすゞの「みんなをすきに」の詩に、[うちのおかずはみいんな、母さまがおつくりになったもの][世界のものはみィんな、神さまがおつくりになったもの]とある。それを聞いた四歳の孫は、「じゃあ母さんは神さまがつくったもので料理をしているのね」と、行間まで読み取っている。そこまで私は考えたこともない。笑っている場合ではない。まごまごするな老人。
いなみ悦
夕刻近く、整形外科のリハビリに行った。隣の小学生連れの親子が呼ばれ、ドアの開いていた事務室へスッスッと入っていった。看護師たちはびっくりして、診療室へ呼び返した。あっという間のことであったが、ひとり笑ってしまった。
立秋が過ぎた頃、真っ赤な木綿のコートを引っ張り出し、洗濯しておこうと張り切った。民族調の手染め風だし、色落ちすると判断したが、なまけ癖がつき洗濯機を回した。案の定、主人のアンダーシャツ、息子のゴルフウェアが薄ピンク色に染まった。「いい色に染まったものだ」と、ひとり笑うしかない。主人には見せられないが、息子には「いい色じゃない?」と見せると、「恥ずかしくて着られないよ、捨てて」と一言。やっぱりだめかと落ち込んだが、エイッと襟を切り捨て、袖丈を短く、裾も私の着丈に切り落としミシンをかけた。「ブラウスの一丁上がり」と、一人ほくそ笑む。
うちの男性(主人と息子)は二人ともゴルフウェアしか着ない。しかも試供品や様々なメーカーのウェアを着るので、どれが誰のものか判断が難しい。ラウンドに出れば洗濯物は山のようで、取り込むとき、この色はヤング、この色は爺臭いと分別し、それぞれの部屋に掛けておくのだが、いつの間にか「これは俺のではありません」と言わんばかりに外されている。仕方なく襟の内側にヤングのY、父のTと印すことにした。名前のイニシャルではなく、Tなのには訳がある。ある時、どう見ても若者仕様だと息子のところへ。しかしおやじのものだったらしい。次に洗濯物を干すとき、内側に文字のようなものが記されていた。縦にしたり横にしたり…読めたのは「父」という文字だった。可笑しくて大笑いをし、Tに決めた。
年を取って、私には高くなってしまった勝手口は、階段にして手すりもつけてある。ヨチヨチ歩きで心配な一歳半の孫に「しっかりつかんでおりるのよ」と言いながら、私はいつもの体勢のバックで下りた。すると孫も体を回転させ、バックで下り始めたではないか。なんという素直さ、行動力の速さに圧倒され腹を抱えて笑った。「拓ちゃんはまっすぐに下りていいのよ」と言ったものの、私の言動が一致しないのを考えされられた。
金子みすゞの「みんなをすきに」の詩に、[うちのおかずはみいんな、母さまがおつくりになったもの][世界のものはみィんな、神さまがおつくりになったもの]とある。それを聞いた四歳の孫は、「じゃあ母さんは神さまがつくったもので料理をしているのね」と、行間まで読み取っている。そこまで私は考えたこともない。笑っている場合ではない。まごまごするな老人。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん