2018年01月20日
がじまん第374号
始まりはウィルソン
屋久杉の「ウィルソン株」は有名で私も耳にしたことがあるが、「ウィルソンって何者?」いう疑問を抱いた古居智子というジャーナリストがいる。彼女はウィルソンの研究家となり、二〇一七年九月から沖縄で、「ウィルソンが見た沖縄」という企画展が開かれた。プラントハンターの彼は、百年前に沖縄も訪れ、「マツはまさに琉球の誉れであると言ってもいい。これほど素晴らしい景観の島はかつて訪れたことがない」と書き残している。
それが頭に残っていた私は、散歩の途中に道から見えた、リュウキュウマツの生えている公園に引き込まれた。百年前にウィルソンが見た琉球は、このようなマツがいたる所に生えていたと思うと、感無量になった。浦添は激戦地だったから、このマツたちは戦後七十年余を経て、堂々とした姿に成長しているのだ。マツクイムシにもやられず、健康そうなマツたちが生えるこの公園は、とても貴重だ。
この公園は高い崖の上にあり、私が入ってきた南側からはやや水平なアプローチだが、北側は数十メートルの落差がある。北側からは沖縄電力の鉄塔や高層ビル、そして二〇一七年八月下旬に最後の橋桁がドッキングした高架橋が見下ろせた。浦添市港川と宜野湾市宇地泊を結ぶ国道58号浦添北道路の一部となる橋である。カメラのフレームに、百年前には想像もつかない建造物と、百年前に琉球のあちこちに見られたリュウキュウマツが同居する。
北側の崖下にある「牧港緑地ふれあい広場」へは、階段でつながっていた。初めて下りる私は、コンクリートや擬木ではなく、階段も手摺りも木製であることに少し驚いた。コンクリート製でないものをつくるには、「丈夫じゃない」などの反対もあっただろうな、と想像したからである。でもコンクリートは耐用年数がきたらスクラップ&ビルドとなるが、木造は一部が古くなったとしても取り換えが利く。何百年もそうしている日本の古寺などを思い浮かべながら、やさしい感触の階段を下りていった。すると途中にこんな札が。「園路階段の手摺りが二度にわたって壊されました。現在、この手摺りを壊した犯人を警察にて調査中です。(中略)平成29年1月31日」。
破壊犯に憤りを覚えると同時に、すでにパーツの交換だけで修復が済んでいることに安堵した。
複雑な気持ちになってさらに下っていくと、階段を上ってくる女生徒と目が合った。すれ違い様に「こんにちは」と清々しい声が聞こえ、沈んでいた気分が一気にプラスに転じた。
ウィルソンから始まった公園での、昼下がりの出来事である。
南ふう
屋久杉の「ウィルソン株」は有名で私も耳にしたことがあるが、「ウィルソンって何者?」いう疑問を抱いた古居智子というジャーナリストがいる。彼女はウィルソンの研究家となり、二〇一七年九月から沖縄で、「ウィルソンが見た沖縄」という企画展が開かれた。プラントハンターの彼は、百年前に沖縄も訪れ、「マツはまさに琉球の誉れであると言ってもいい。これほど素晴らしい景観の島はかつて訪れたことがない」と書き残している。
それが頭に残っていた私は、散歩の途中に道から見えた、リュウキュウマツの生えている公園に引き込まれた。百年前にウィルソンが見た琉球は、このようなマツがいたる所に生えていたと思うと、感無量になった。浦添は激戦地だったから、このマツたちは戦後七十年余を経て、堂々とした姿に成長しているのだ。マツクイムシにもやられず、健康そうなマツたちが生えるこの公園は、とても貴重だ。
この公園は高い崖の上にあり、私が入ってきた南側からはやや水平なアプローチだが、北側は数十メートルの落差がある。北側からは沖縄電力の鉄塔や高層ビル、そして二〇一七年八月下旬に最後の橋桁がドッキングした高架橋が見下ろせた。浦添市港川と宜野湾市宇地泊を結ぶ国道58号浦添北道路の一部となる橋である。カメラのフレームに、百年前には想像もつかない建造物と、百年前に琉球のあちこちに見られたリュウキュウマツが同居する。
北側の崖下にある「牧港緑地ふれあい広場」へは、階段でつながっていた。初めて下りる私は、コンクリートや擬木ではなく、階段も手摺りも木製であることに少し驚いた。コンクリート製でないものをつくるには、「丈夫じゃない」などの反対もあっただろうな、と想像したからである。でもコンクリートは耐用年数がきたらスクラップ&ビルドとなるが、木造は一部が古くなったとしても取り換えが利く。何百年もそうしている日本の古寺などを思い浮かべながら、やさしい感触の階段を下りていった。すると途中にこんな札が。「園路階段の手摺りが二度にわたって壊されました。現在、この手摺りを壊した犯人を警察にて調査中です。(中略)平成29年1月31日」。
破壊犯に憤りを覚えると同時に、すでにパーツの交換だけで修復が済んでいることに安堵した。
複雑な気持ちになってさらに下っていくと、階段を上ってくる女生徒と目が合った。すれ違い様に「こんにちは」と清々しい声が聞こえ、沈んでいた気分が一気にプラスに転じた。
ウィルソンから始まった公園での、昼下がりの出来事である。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん