2018年03月05日
がじまん第377号
モーゼルワインの青年
時々ふらっと立ち寄る市場の雑然とした店で、二人の外国の青年がビールを飲みながら談笑している。「どこから来たの?」と聞くと、ドイツのモーゼル川が流れるワイン産地ザーランドだと言う。ワインの産地だと聞き、連想ゲーム感覚で、ワイン=農業=素朴のイメージで親しみが湧いた。ザーランドは国境の町で、パリまで車で3時間の近さ、ルクセンブルク、オーストリア、スイスも近いと言った。フランス語と英語も話す。ボクのブロークンイングリッシュのコミュニケーションは二時間に及んだ。流石に相手は20代で元気いっぱい、体が付いて行けず「明日、首里城を案内しましょう」と告げて帰った。
琉球の簡単な歴史は首里城でなぞり、「琉球の歴代の王様は自然に代替わりしていったのですか?殺された王様は?」「いませんよ」「自然の代替わり?」「はい…?」すっかり感心の表情。なるほど、地続きのヨーロッパは虐殺と大量の殺し合いが国境を越えて続いたのだ。ボクたちは中国からだって殺されなかったし、と、琉球を自慢する。この際、歴史はさておき、生身の青年たちに興味を戻そう。オリオンビールと沖縄そばと餃子、ティビチをよく食べる。「ドイツはビールの本場だけど、オリオンビールは美味いの?」「美味しいですよ」それはうれしい。
彼らは簡易宿を転々、二週間余の滞在を予定していた。そこで二日間をかけて、首里城→嘉数の丘→中城→中村家→適当な沖縄料理→宜野湾→知念→新原ビーチ→糸満→那覇界隈と巡った。
中村家では木造に興味を示し、引き戸の戸道の上下を細かく観察し、戸袋を見つけ「あれ何?」、ボクは「戸袋」の機能を説明し、戸を得意気に引き出して見せる。一番座の後ろの三畳ほどの「裏座」で、「この部屋には夜中に外から恋人が忍んで来る」と言った。すると殊の外喜び、「何故、玄関から来ない?」「沖縄の民家の開口部はみんな玄関だ」と言ったらまた喜んだ。この民家にはトイレはないの?と聞いて来た。台所から「ウヮーフル」に出て「ここは豚の部屋で、トイレを兼用している」と、出来るだけロマンチックな表情で説明してあげた。彼らは不思議そうにウヮーフルを撮影し背後の木立を観察した。君たち興味津々だねと言うと一人はデザイン、一人は木造や木工のクラフトマンを修行中とのことで、「なるほど」であった。
次の日は海岸線を走り、「ボクたちの島は小さいけど、沖縄の海はとても広いのだ」と言ったら、すごく頷いた。ザーランド州には海がなく、人工的な池(海と呼んでいる)で泳いでいると言う。「美しいモーゼル川で泳がないの?」「観光船が往来しているので泳げない」「なるほど」。昼夜の二日間、彼らにとって初めての日本は沖縄なんだと感じ、親切心はヒートする。
「再度、沖縄に来たい。ローゼルさんも私たちのザーランドに来てください。家に招待し、モーゼルワインで歓迎します」という再会の言葉。
数冊の本と「水彩画&エッセイ」を差し上げて別れたが、モーゼルワインが脳裏から離れない。
ローゼル川田
時々ふらっと立ち寄る市場の雑然とした店で、二人の外国の青年がビールを飲みながら談笑している。「どこから来たの?」と聞くと、ドイツのモーゼル川が流れるワイン産地ザーランドだと言う。ワインの産地だと聞き、連想ゲーム感覚で、ワイン=農業=素朴のイメージで親しみが湧いた。ザーランドは国境の町で、パリまで車で3時間の近さ、ルクセンブルク、オーストリア、スイスも近いと言った。フランス語と英語も話す。ボクのブロークンイングリッシュのコミュニケーションは二時間に及んだ。流石に相手は20代で元気いっぱい、体が付いて行けず「明日、首里城を案内しましょう」と告げて帰った。
琉球の簡単な歴史は首里城でなぞり、「琉球の歴代の王様は自然に代替わりしていったのですか?殺された王様は?」「いませんよ」「自然の代替わり?」「はい…?」すっかり感心の表情。なるほど、地続きのヨーロッパは虐殺と大量の殺し合いが国境を越えて続いたのだ。ボクたちは中国からだって殺されなかったし、と、琉球を自慢する。この際、歴史はさておき、生身の青年たちに興味を戻そう。オリオンビールと沖縄そばと餃子、ティビチをよく食べる。「ドイツはビールの本場だけど、オリオンビールは美味いの?」「美味しいですよ」それはうれしい。
彼らは簡易宿を転々、二週間余の滞在を予定していた。そこで二日間をかけて、首里城→嘉数の丘→中城→中村家→適当な沖縄料理→宜野湾→知念→新原ビーチ→糸満→那覇界隈と巡った。
中村家では木造に興味を示し、引き戸の戸道の上下を細かく観察し、戸袋を見つけ「あれ何?」、ボクは「戸袋」の機能を説明し、戸を得意気に引き出して見せる。一番座の後ろの三畳ほどの「裏座」で、「この部屋には夜中に外から恋人が忍んで来る」と言った。すると殊の外喜び、「何故、玄関から来ない?」「沖縄の民家の開口部はみんな玄関だ」と言ったらまた喜んだ。この民家にはトイレはないの?と聞いて来た。台所から「ウヮーフル」に出て「ここは豚の部屋で、トイレを兼用している」と、出来るだけロマンチックな表情で説明してあげた。彼らは不思議そうにウヮーフルを撮影し背後の木立を観察した。君たち興味津々だねと言うと一人はデザイン、一人は木造や木工のクラフトマンを修行中とのことで、「なるほど」であった。
次の日は海岸線を走り、「ボクたちの島は小さいけど、沖縄の海はとても広いのだ」と言ったら、すごく頷いた。ザーランド州には海がなく、人工的な池(海と呼んでいる)で泳いでいると言う。「美しいモーゼル川で泳がないの?」「観光船が往来しているので泳げない」「なるほど」。昼夜の二日間、彼らにとって初めての日本は沖縄なんだと感じ、親切心はヒートする。
「再度、沖縄に来たい。ローゼルさんも私たちのザーランドに来てください。家に招待し、モーゼルワインで歓迎します」という再会の言葉。
数冊の本と「水彩画&エッセイ」を差し上げて別れたが、モーゼルワインが脳裏から離れない。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん