2020年04月10日
がじまん第412号-1(Essay 427)
花咲かじいさん
昨年、30代の頃勤務していた岡山の病院に呼ばれて講演することになった。前夜に歓迎会もある。沖縄岡山便は到着が午後8時半になるので、隣県の香川経由にした。夕方5時前高松空港着、高松駅からポートライナーで6時半には岡山駅に到着する。そう連絡したところ、昔馴染みの看護師3人が高松空港まで車で迎えに来てくれることになった。野山を歩き回り、ヨットに乗り、筏を作って旭川に浮かべて遊んだ仲間たちだった。
到着ロビーには初老の男が3人だけ、彼らのはずだが、30年の年月で風化した姿を直視できなかった。相手も私の姿に落胆の念を抱いているだろう。浦島太郎の気分だ。戸惑いはおくびにも出さず、照れがちに挨拶を交わすと、不思議に声は変わっていない。私の荷物をすぐに持ってくれ、4人並んで車に向かう。左右に彼らの存在を感じながら歩いていると、一緒に駆けまわった昔の感覚が蘇ってくる。
車に乗り込むと、讃岐うどんを食べに行きましょうと言い、私の返事を待たずに車は発進。7時半から理事長が待っている歓迎会、美味しい夕食が待っているのに。遠く香川まで、車で迎えに来てくれたのは嬉しいことだが、私の都合も聞かずにうどんを食べに行くという。真っ直ぐ向かっても時間がないのに、わざわざ山の中のうどん屋へ寄り道をするのである。無邪気、無計画、無鉄砲、彼ららしいなと思い仕方なく従う。15分ほど車で走って、有名だという店に着く。
すると彼らは私に大きな掻き揚げの乗った名物うどんを勧める。これがこの店の人気メニューだからと。こんなに大きなのは食べられないと尻込みするが、彼らは言うことをきかない。そして自分たちは普通サイズを注文する。なんで私だけ大なんだと、信じられない思いがした。聞くと、頭をかきながら、実は今日3杯目なんですと言う。早く迎えに来すぎて、ブラブラしている間に2軒回り、すでに2杯を食べていたのだ。それなのに、私に美味しい讃岐うどんを食べさせようと、今人気の店に案内して、一緒にうどんを食べてくれるというのだ。何てバカなことを。昔からそんなおバカな奴らだったな、と思うと胸が熱くなった。
その後、岡山に予定より遅れて到着し、急いで歓迎会会場へ。女性達も年をとっていて、にわかには誰が誰だか判別つかない。またもや浦島太郎になった。それでも一人ひとりから、私にまつわるエピソードを聞いていくと、当時の様子がありありと蘇ってきた。忘年会の余興の練習を屋上に集めてやったとか、モデルガンを持って離れ島に上陸して撃ち合いをするサバイバルゲームに興じた話とか、若かりし頃の私の無茶苦茶な行動が次々語られていった。もう年は関係ない。すでに30年前の姿で、声で、心で語り合っていた。みんな若やいでいき20代の姿が蘇ってきた。華やかに花が咲き乱れて、花咲かじいさんになった気分だ。
長田清
昨年、30代の頃勤務していた岡山の病院に呼ばれて講演することになった。前夜に歓迎会もある。沖縄岡山便は到着が午後8時半になるので、隣県の香川経由にした。夕方5時前高松空港着、高松駅からポートライナーで6時半には岡山駅に到着する。そう連絡したところ、昔馴染みの看護師3人が高松空港まで車で迎えに来てくれることになった。野山を歩き回り、ヨットに乗り、筏を作って旭川に浮かべて遊んだ仲間たちだった。
到着ロビーには初老の男が3人だけ、彼らのはずだが、30年の年月で風化した姿を直視できなかった。相手も私の姿に落胆の念を抱いているだろう。浦島太郎の気分だ。戸惑いはおくびにも出さず、照れがちに挨拶を交わすと、不思議に声は変わっていない。私の荷物をすぐに持ってくれ、4人並んで車に向かう。左右に彼らの存在を感じながら歩いていると、一緒に駆けまわった昔の感覚が蘇ってくる。
車に乗り込むと、讃岐うどんを食べに行きましょうと言い、私の返事を待たずに車は発進。7時半から理事長が待っている歓迎会、美味しい夕食が待っているのに。遠く香川まで、車で迎えに来てくれたのは嬉しいことだが、私の都合も聞かずにうどんを食べに行くという。真っ直ぐ向かっても時間がないのに、わざわざ山の中のうどん屋へ寄り道をするのである。無邪気、無計画、無鉄砲、彼ららしいなと思い仕方なく従う。15分ほど車で走って、有名だという店に着く。
すると彼らは私に大きな掻き揚げの乗った名物うどんを勧める。これがこの店の人気メニューだからと。こんなに大きなのは食べられないと尻込みするが、彼らは言うことをきかない。そして自分たちは普通サイズを注文する。なんで私だけ大なんだと、信じられない思いがした。聞くと、頭をかきながら、実は今日3杯目なんですと言う。早く迎えに来すぎて、ブラブラしている間に2軒回り、すでに2杯を食べていたのだ。それなのに、私に美味しい讃岐うどんを食べさせようと、今人気の店に案内して、一緒にうどんを食べてくれるというのだ。何てバカなことを。昔からそんなおバカな奴らだったな、と思うと胸が熱くなった。
その後、岡山に予定より遅れて到着し、急いで歓迎会会場へ。女性達も年をとっていて、にわかには誰が誰だか判別つかない。またもや浦島太郎になった。それでも一人ひとりから、私にまつわるエピソードを聞いていくと、当時の様子がありありと蘇ってきた。忘年会の余興の練習を屋上に集めてやったとか、モデルガンを持って離れ島に上陸して撃ち合いをするサバイバルゲームに興じた話とか、若かりし頃の私の無茶苦茶な行動が次々語られていった。もう年は関係ない。すでに30年前の姿で、声で、心で語り合っていた。みんな若やいでいき20代の姿が蘇ってきた。華やかに花が咲き乱れて、花咲かじいさんになった気分だ。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん