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2020年07月10日

がじまん第415号-1(Essay 433)

手繋ぎの効用
内間美智子
 
 合同作品集36の拙作「つながり」の中で、幼稚園児の頃に祖母の柔らかい掌で背中を摩られ、温かい感触が八十路になっても残っていることを書いた。それに似たような忘れられない思い出がある。
 大学進学のため故郷を離れた時のことである。大学生とはいえ、両親、弟妹のもとを離れることは初体験で心細いことこの上ない私だった。
 入学早々ホームシックにかかってしまった。不安感と淋しさを紛らわそうとある日の夕刻、一人散歩に出た。故郷の方角、南の夕空を眺めながらぼんやりと歩いていると、そっと静かに寄り添ってきた友人がいた。近所に間借りしている同郷の同級生だった。私のうつろな表情に異状を察知したのだろうか、私に手を差し伸べ、無言で一緒に歩いてくれた。
繋いだ手はほっこりして心地よかった。言葉をかけてくれるより心は安らいだ。あの感触は今も掌がしっかり覚えている。
 スキンシップは心を癒し、よい人間関係を形成するといわれる。しかし、昨今の新型コロナウイルス騒動で、ソーシャルディスタンスなどといって、人と人との間隔を一、二メートル空けることが常識になってしまっている。肩を叩いて励ますことも禁止と聞く。まさに異常事態だ。
 わがエッセイスト・クラブ会員の石川キヨ子さんが園長を務める「みどり保育園」の会報五月号に、このようなことが書かれている。
「……子育ては、常に密な状態を保つ行いなのです。スキンシップをとることで乳幼児の心の安定を保ちます。子どもたちの不安感を無くすにも、〝だっこ〟という当たり前の行為が一番の特効薬だと思っています」
 私の経験からしてもしかりである。やんちゃ盛りの子で喧嘩っ早い子でも、取っ組み合いに入る前に目敏く見つけ、ギュッと抱きしめてやると、荒れた表情は必ず落ち着くものである。
 感染防止の観点から仕方がないとはいえ、親友をも警戒しなくてはならないこの閉鎖的状況を一日も早く打破したいものだ。そして気軽に握手を交わし、人と人との温もりを肌で感じる世の中に戻ってほしい。
 冒頭に書いた、私の手をとってホームシックを和らげてくれた友も、私と同じく八十路を過ぎているわけだ。あの日のことを覚えてくれているだろうか。


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