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2021年02月10日

がじまん第422号-1(Essay 447)

悪夢か、妄想か、必然か
上原盛毅 

 世界中のマスコミを賑わせた米国の大統領選挙は現職のドナルド・トランプ大統領を抑えて民主党のジョー・バイデン(78)が勝利した。だが、選挙中の候補者同士の罵り合い、支持者間の暴力衝突、デマや謀略、不正疑惑など何でもありの様相を見せられると、米国政治の劣化、中南米化と思わざるを得ない。待てよ、そもそも米国は本当に民主義国家だったのか、表面上は世界のモデルとなる社会と謳っているが、実態は人種差別や偏見の存在する強者生存の世界ではなかったか。また、どうして粗野なマッチョと善良そうな優男の老人二人が米国を代表する二大政党の候補者として選ばれるのか不思議ではある。
 好嫌の感情を別にすれば、トランプに替わってバイデン大統領になると、対中政策において中国にやられるのではないかと懸念されるのである。大体、オバマ大統領・バイデン副大統領時代の八年間に、中国を野放図にのさばらせ、米国の富をふんだくられ、中国を怪物化させたのではなかったか。それに気づいたトランプが米中貿易戦争を仕掛けたとき、時すでに遅く、米国が圧勝するとの大方の予測を覆し、中国の手ごわさにてこずっているように見える。
 米国一強の時代はもはや過ぎて、対抗する中国は「一帯一路」を掲げ世界戦略を進めながら、国連と途上国を操り、反中国派への恫喝外交もあからさまにし始めている。中国は一党独裁の国家であり政策の決定、実行は迅速にできるので、議論と法手続きを基本とする民主主義国とはスピード感が違う。その差を突かれるのである。しかも、中国の対外政策は不戦屈敵の「三戦策」(世論戦、心理戦、法律戦)を基本とし、相手国の内部への浸透を図る。日本はまさにそのターゲットといっていい。いや日本だけでなく、英国やドイツなど西欧諸国も例外ではない。彼らにとって、政治体制が民主的であれ独裁的であれ構わず、中国に協力的かどうかを基準とする。かつての中華思想の冊封体制を想起するし、「一帯一路政策」や「アジアインフラ投資銀行」も明朝の海禁策の現代的手直しと思えてくる。
 然らば日本はどうするのか。従来通り米国べったりで行くのか、少しずつ中国に鞍替えしていくのか、多くの識者はその論議で明け暮れている。冗談ではない。なぜ、どちらにも組みせず、日本の独自路線を構築し、米中を手玉にとって国益のための外交を進めるという発想、気迫は生じないのか。いま世界の歴史はAI時代を迎え、コロナ禍を契機に大きく変化しようとしている。この流れをきちんと押さえて対処しないと、日本はまさしく衰退途上国に陥って東海の小島になってしまうと憂えるのは考え過ぎというのだろうか。二十年後の世界がどう変わっているか不安ながらも興味があるが、それを見届けられないのが残念である。


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