2021年12月10日
がじまん第432号-2(Essay 468)
西表島への想い
今年七月、「奄美大島、徳之島、沖縄本島北部および西表島」が世界自然遺産に登録された。とても誇らしく嬉しいことである。
石垣で勤務していた一九九九年から二年間、私は週末の休暇のほとんどを西表島で過ごしていた。最初に西表島を訪れた四月は、知人のSさんに誘われてヤエヤマボタルを見た。白浜トンネルが出来る前に利用されていたという旧道の入口付近に車を置き、徒歩で旧道を登り日没を待った。日没と同時に道路の両斜面の林の中で光の明滅が始まった。やがて斜面が一斉に輝き出し最高潮に達すると、ホタル達が舞い降り道路が光のトンネルのようになった。あまりの美しさに我を忘れて光の中に佇んでいると、彼らは静かに林の中に吸い込まれていった。三十分の夢幻の世界だった。
その光景が忘れられず、那覇に戻ってからも度々同じ場所を訪れたが、年々ホタルが減少し、同じ光景を見たことがない。観光客が増えてホタルの生息地まで乗り入れる車のライト等が一因ともいわれている。
夏は、旧知のY氏に誘われて川のサガリバナを見に行った。朝四時半、十五分位カヌーのオールの使い方の指導を受けて出発。漆黒の闇の中をY氏の懐中電灯を頼りに必死にオールを漕ぐ。
やがてあたりが白み始め、気がつくと雄大な山々に囲まれた広い川の中に二艘のカヌーが浮いていた。しばらくすると澄み切った大気の中に香しさが漂ってきた。川の両岸にサガリバナの大木が林立し、長い花房から落ちて来る花が「ポトッ、ポトッ」と心地よいリズムを刻んでいた。岩場に腰を下ろし、一夜限りで散る花の儚さと散り際の美しさにしばし見とれた。
七時半ごろ川を下り始めた。山の稜線が映る川面に浮かぶ無数の花びらが、朝日にきらめきながらゆったりと河口に向かう。カヌーを漕ぎながらT氏に「感動しました。世界に誇ることができる光景ですね」と告げた。長年西表の観光に携わってきたT氏は「実はツアーコースに組み込むかどうか悩んでいます。大勢で踏み込まれるのは避けたいので」と話していた。
その後は年々見学者が増加し、とくに四年前仲良川に行った時、川の様子が一変している事に驚いた。以前は訪れる人がいなかった川に、三、四十名乗りの動力船や小型のボート等が行き交い、その間を縫ってカヌーが通る状況だった。すれ違う大型ボートの舳先が木々をこすって木の枝が折れたりもしていた。二十年前のT氏の言葉を思い出し、胸が痛くなった。
世界遺産に登録された西表島には、今後さらに多くの観光客が訪れるだろう。生態系を維持し後世に自然遺産を残すためには、入域制限や移動手段(電動のバスやボート等)、島内での車のスピード制限等々、持続可能を目指す対策が早急に必要であると思う。
ここ三年位西表島に行っていない。コロナ禍が収束したときには真っ先に西表島に行って、西表島を愛する一人として、何か自分でできる事を行いたい。
金城弘子
今年七月、「奄美大島、徳之島、沖縄本島北部および西表島」が世界自然遺産に登録された。とても誇らしく嬉しいことである。
石垣で勤務していた一九九九年から二年間、私は週末の休暇のほとんどを西表島で過ごしていた。最初に西表島を訪れた四月は、知人のSさんに誘われてヤエヤマボタルを見た。白浜トンネルが出来る前に利用されていたという旧道の入口付近に車を置き、徒歩で旧道を登り日没を待った。日没と同時に道路の両斜面の林の中で光の明滅が始まった。やがて斜面が一斉に輝き出し最高潮に達すると、ホタル達が舞い降り道路が光のトンネルのようになった。あまりの美しさに我を忘れて光の中に佇んでいると、彼らは静かに林の中に吸い込まれていった。三十分の夢幻の世界だった。
その光景が忘れられず、那覇に戻ってからも度々同じ場所を訪れたが、年々ホタルが減少し、同じ光景を見たことがない。観光客が増えてホタルの生息地まで乗り入れる車のライト等が一因ともいわれている。
夏は、旧知のY氏に誘われて川のサガリバナを見に行った。朝四時半、十五分位カヌーのオールの使い方の指導を受けて出発。漆黒の闇の中をY氏の懐中電灯を頼りに必死にオールを漕ぐ。
やがてあたりが白み始め、気がつくと雄大な山々に囲まれた広い川の中に二艘のカヌーが浮いていた。しばらくすると澄み切った大気の中に香しさが漂ってきた。川の両岸にサガリバナの大木が林立し、長い花房から落ちて来る花が「ポトッ、ポトッ」と心地よいリズムを刻んでいた。岩場に腰を下ろし、一夜限りで散る花の儚さと散り際の美しさにしばし見とれた。
七時半ごろ川を下り始めた。山の稜線が映る川面に浮かぶ無数の花びらが、朝日にきらめきながらゆったりと河口に向かう。カヌーを漕ぎながらT氏に「感動しました。世界に誇ることができる光景ですね」と告げた。長年西表の観光に携わってきたT氏は「実はツアーコースに組み込むかどうか悩んでいます。大勢で踏み込まれるのは避けたいので」と話していた。
その後は年々見学者が増加し、とくに四年前仲良川に行った時、川の様子が一変している事に驚いた。以前は訪れる人がいなかった川に、三、四十名乗りの動力船や小型のボート等が行き交い、その間を縫ってカヌーが通る状況だった。すれ違う大型ボートの舳先が木々をこすって木の枝が折れたりもしていた。二十年前のT氏の言葉を思い出し、胸が痛くなった。
世界遺産に登録された西表島には、今後さらに多くの観光客が訪れるだろう。生態系を維持し後世に自然遺産を残すためには、入域制限や移動手段(電動のバスやボート等)、島内での車のスピード制限等々、持続可能を目指す対策が早急に必要であると思う。
ここ三年位西表島に行っていない。コロナ禍が収束したときには真っ先に西表島に行って、西表島を愛する一人として、何か自分でできる事を行いたい。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん