2022年03月10日
がじまん第435号-1(Essay 473)
食べること、生きること
『自転車に乗った高齢女性を突き飛ばし、ひったくりなどした疑いで、男四人が逮捕されました』
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて緊急事態宣言が発出された六月、学校の休校措置で仕事なしの私と高齢の母ふたりのお昼時に、テレビからニュースが流れてきた。
『容疑者ら四人は、自転車に乗った女性の後ろから車で接近。 追い抜きざまに、自転車のかごから、現金八万九千円などが入ったバッグを奪い、自転車ごと突き飛ばした疑いがかけられています』
『現金八万九千円を奪われたのは、八十二歳の女性。 四人は、女性がパチンコ景品交換所で現金を受け取る様子を確認したうえで犯行に及んだとみられています』
「ちょっとちょっと、パチンコで九万近く稼いで自転車を乗り回す八十二歳のオバーってよ~! でーじすごい、生きる力だよね~」
「だからよ~。ハハハハ~」
しかし、待てよ。今、目の前で笑っている八十六歳の母も「生きる力」といえば捨てたもんじゃない。今日のお昼は「フーちゃんぷるー」と「餃子」。冷凍の餃子は十二個入り。大皿にどんと盛り付けながら、半分こにするとしたら六個だから、高齢の母は五個として私は七個食べられると目論んでいた。が、しかし、大皿に残った最後の一個をお箸でつまみ、口に持っていきながら「これ、食べていい?」と私に許可を求めたではないか。私は「いいよ」と言うしかない。
でも悔しいから「箸でつまんでからいいねって聞かれても、いいって言うしかないでしょう」と文句を言った。母は「そうね~」となんの悪びれた様子もなく最後の餃子をおいしそうに口に入れた。その前日は親子丼にお味噌汁。そして明太子スパゲティやナーベーラーの味噌煮、ピザトーストなどの緊急事態宣言下での母とのお昼。とにかく母はよく食べる。初めて食するものでも臆せずチャレンジする。「大福食べる?」「パイン食べる?」「〇〇食べる?」と聞いて、断られた例がほぼほぼない。
そういえば、百六歳で亡くなった祖母もよく食べた。食べられなくなったら容態が悪くなり、あっという間に逝ってしまった。食べることは生きることにつながる。そんなことを感じた昼下がりであった。
神保しげみ
『自転車に乗った高齢女性を突き飛ばし、ひったくりなどした疑いで、男四人が逮捕されました』
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて緊急事態宣言が発出された六月、学校の休校措置で仕事なしの私と高齢の母ふたりのお昼時に、テレビからニュースが流れてきた。
『容疑者ら四人は、自転車に乗った女性の後ろから車で接近。 追い抜きざまに、自転車のかごから、現金八万九千円などが入ったバッグを奪い、自転車ごと突き飛ばした疑いがかけられています』
『現金八万九千円を奪われたのは、八十二歳の女性。 四人は、女性がパチンコ景品交換所で現金を受け取る様子を確認したうえで犯行に及んだとみられています』
「ちょっとちょっと、パチンコで九万近く稼いで自転車を乗り回す八十二歳のオバーってよ~! でーじすごい、生きる力だよね~」
「だからよ~。ハハハハ~」
しかし、待てよ。今、目の前で笑っている八十六歳の母も「生きる力」といえば捨てたもんじゃない。今日のお昼は「フーちゃんぷるー」と「餃子」。冷凍の餃子は十二個入り。大皿にどんと盛り付けながら、半分こにするとしたら六個だから、高齢の母は五個として私は七個食べられると目論んでいた。が、しかし、大皿に残った最後の一個をお箸でつまみ、口に持っていきながら「これ、食べていい?」と私に許可を求めたではないか。私は「いいよ」と言うしかない。
でも悔しいから「箸でつまんでからいいねって聞かれても、いいって言うしかないでしょう」と文句を言った。母は「そうね~」となんの悪びれた様子もなく最後の餃子をおいしそうに口に入れた。その前日は親子丼にお味噌汁。そして明太子スパゲティやナーベーラーの味噌煮、ピザトーストなどの緊急事態宣言下での母とのお昼。とにかく母はよく食べる。初めて食するものでも臆せずチャレンジする。「大福食べる?」「パイン食べる?」「〇〇食べる?」と聞いて、断られた例がほぼほぼない。
そういえば、百六歳で亡くなった祖母もよく食べた。食べられなくなったら容態が悪くなり、あっという間に逝ってしまった。食べることは生きることにつながる。そんなことを感じた昼下がりであった。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん