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2022年11月10日

がじまん第443号-1(Essay 489)

眼鏡が曇った
稲田隆司
 
 九州医師会連合会総会への参加の為、大分へ向かった。夏の終わり、コロナ禍の間を縫っての現地参加である。久々である。クールビズとのことだが、事務方は他県の先生方は皆白シャツにスーツ、ノーネクタイですよという。かりゆしではいかんのかなと思いつつ準備をした。太ったせいか、窮屈だ。
 朝、那覇を発ち、福岡で大分行き列車に乗り込んだ。2時間の時間潰しに新聞や本を持ち込んだが、横揺れが酷くどうも読みにくい。車窓を眺める事にした。久しぶりの九州で山々の緑が美しい。歴史を感じさせる村、家並み、橋、河の変化を愉しんだ。大分市に近づくと何キロであろうか美しい海岸線が続く。海を横目に山もひかえ豊かな土地である。
 さて、総会では私は経理担当で財務報告をしなければならない。事前に用意もしてあり余裕で着席した。稲田委員と呼ばれ、マイクを握った。はっきりと活舌よく発音だと気合いを入れる。老眼鏡をかけマスクもして感染対策もバッチリだ。ところが原稿を読み始めると一瞬にして眼鏡が曇った。数字が見えない。息が水蒸気となるので眼鏡を外す。ぼんやりと文字は読めるのだが原稿を遠く離しピントを合わす。何とか報告を終えたが冷や冷やものであった。
 総会終了後、何名かの事務方に数字の読み違いはなかった?と確認した。皆大丈夫でしたよという。こちらは本当か、慰めているのではと深読みも生じる。
 私の前の報告者が寄ってきて、先生も曇りましたかと、ニヤリとする。私はマスクを外しましたよと。そう、マスクを外すと通常通りで、眼鏡は曇らない。以後気を付けようと思った。

 夕方の懇親会時に、同席した宮崎県の先生にこの話をした。軽くアルコールが入り、ふとこれはエッセイのネタになると思い、色々な事がエッセイに転じるので面白いと伝えた。
 この先生は文人で、全国の医師会協同組合誌に川柳を投稿したり、小説を書いて賞を取るぞと笑顔で語る。
さすがに大分は食の産地で、関アジ、関サバ、豊後牛、と豊かである。飲み物にホテル特製赤、白ワインとあった。おお〝紅白〟か、と嬉しくなり、宮崎の先生に私の紅白好きを話した。
 ワインは赤・白と交互に紅白を飲む。祝いには、紅白のワイン。昔、後輩の結婚祝いを京都の丹後の紅白の日本酒にした事もある。寿司屋ではマグロ、シロミ、海老、イカと紅白を注文、とっておきは鉄火巻き、白いお米に巻かれた紅のマグロと、たわいもない話である。
曇った眼鏡が紅白と結びつき良き日であった。


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