沖縄エッセイスト・クラブ

五十一年目への一歩

　私がナレーターとして関わっているテレビ番組「ウチナー紀聞」でこの四月から新シリーズがはじまった。番組開始から二十年以上経過しているのに新シリーズが？　と思ったが、テーマを聞いて納得した。テーマは「うまんちゅの半世紀」。沖縄は去年、日本に復帰し五十年目を迎えた。復帰を振り返り、未来を考えようというのが狙いだ。第一回のミス事情に迫ったが今後も楽しみだ。
　この五十年は私の人生とほぼイコール。私は沖縄が日本に復帰する二年前に生まれた。が、復帰については当然記憶にはない。子供の頃、家にドルがあったので両親はアメリカ旅行に行ったのだと思っていた。小学二年の時に７３０(ナナサンマル)。道路交通法がこれまでのアメリカから日本のものへと変更になったがピンとこなかった。母子手帳の交付元が私と弟では違う。私は琉球政府から。三つ下の弟は那覇市。沖縄の社会全体が本土に追いつけ追い越せと躍起になっていた。改めて自分が育った時代が沖縄の大きな転換期であったのだなあとしみじみ。
　先日、旧海軍司令部壕に行った。那覇市と豊見城市にまたがる旧海軍司令部壕は、太平洋戦争末期の一九四四年八月十日に着工。ツルハシなどで約四五十メートルを手掘りし、五ヶ月で完成させたという。壕の壁にはツルハシの跡が今もくっきりと残っている。
　海軍司令部というと、大田實司令官の「沖縄県民斯く戦えり」が有名だ。米軍の激しい攻撃にいよいよ後がなくなった一九四五年六月六日。自決を前に多田海軍次官宛に打った電文だ。沖縄県民が老若男女問わず、懸命に戦ったことを訴え、「後世特別のご高配を」と結んでいる。あの戦争の中で、このように県民に心を寄せた人がいたのかと思うと同時に、その「ご高配」とやらは感じられないなあとか、住民を巻き込んだ戦争を看過してはならないとか、当時の軍人達もまた戦争の犠牲者だったなど複雑な思いが湧いた。
　旧海軍司令部壕を整備、管理しているのは沖縄観光コンベンションビューロー。なぜ観光関係団体が？　と驚いたが、復帰前後の沖縄観光は慰霊や墓参が主な目的。沖縄の観光は慰霊から始まったのだ。観光ルートに戦跡が入っている理由がよくわかった。忘れないようにしたい。
　ちなみに、司令部壕のビジターセンターで沖縄戦の概要をまとめたビデオがこの程公開された。ナレーションを担当した。手前味噌で申し訳ないがとてもわかりやすくまとまっているので、来館の際は見て欲しい。