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2024年02月10日

がじまん第458号-2(Essay 520)

老後の思わぬ出費
大宜見義夫

 古島駅から首里駅へ弧を描いて走るモノレール車両を眼下に見る末吉公園西端の高台に新居を構えて十三年になる。西原町で二十三年に及ぶ開業医生活にピリオドを打ち、この地を終生の地として選んだ。
 入居後十年間は平穏に過ごせたものの、やがて、電化製品を中心に故障が相次いだ。痛かったのは、めったに使わない客間の天井の大型クーラーがいきなり故障し六十万円の修理代を要したことだった。
 エレベーターの故障も痛かった。一階部分を屋内駐車場にしたため、将来の車椅子時代に備え、設置した小型のエレベーターが築後十二年目目に突然動かなくなり、これにも六十万円の大金を支払った。
 トイレの故障には四週間も要し、困惑した。設置十三年を経過して電子回路の代替品がなかったのだ。上の階の書斎部屋に予備のトイレがあったことで、なんとか事なきを得た。取り換えるトイレは複雑な電子回路の最新式を止め、レバーで流す旧式にした。
 炊事場の排水管の詰まりでは詐欺まがいの被害にあった。旧盆ウンケーの前日、盆料理準備の真っ最中、台所床下の排水管が詰まり、料理の中断を余儀なくされた。そんな折、郵便受けに「水道工事、見積もり無料、二十四時間受けつけ・年中無休・いつでも緊急出動」というチラシが入っていた。焦って電話すると、沖縄なまりのない若者がすぐさまやってきた。若者は床下の排水管をのぞき回った後、キッチン下の排水管の詰まりのひどい状態を伝え、更に、浴室の排水管も錆びて破裂寸前にあり、緊急の取り替えを要すると言い、「見ていて見ぬふり出来ない…」などと口走るので応じてしまった。二時間ほどで工事が終わり、台所の流れはよくなったものの、手渡された請求書に驚いた。浴室の排水工事代も含め、総額三十八万円もの大金である。高額の修理代に驚きながらも旧盆前日という事もあり、数枚に及ぶ請求書や発注書をろくに見ず、代金を払ってしまった。
 後で知人の専門家に聞いたら、せいぜい三万円程度の修理代のようだった。詐欺まがいの水道修理屋であることは、修理が終わった段階で、現金払いをしつこく求め、銀行振り込みには応じないこと、領収書を作業項目別に小分けして用意し、比較的少額請求の形にして総額がわからぬようにしていたこと、更に作業当日に領収書への押印をしつこく迫ったことなどからも明らかだった。その後まもなくして、類似の詐欺まがい新聞記事を見た。「トイレつまりで四十四万円請求・水まわり修理トラブル増・沖縄市水道局注意喚起」琉球新報(2022・12・10)。
 老後の新居を得て、やれやれと思っていた矢先、想定外の出費だった。妻は思いもよらぬ詐欺まがいの支払い額を細かい数字まで覚えていて、その話になると、今でも苦々しげに口を尖らせる。
 身の回りの便利な耐久消費財も人と同様いずれ老化し、金食い虫になりうることを改めて知った。


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