2003年05月20日
がじまん第24号
続・ミネルバの「ふくろう」
フクロウ(ミミズク・コノハズクを含む)は、フクロウ目フクロウ科の鳥だという。それは、一日も終わりに近い、夕暮れになってから活動を始める。糸満市字喜屋武では、フクロウを「マヤージクク」と呼んでいる。「ジクク」は「ミミズク」の「ズク」の系統語であろう。そして顔が、猫によく似ていることから「マヤージクク」と名付けたと思われる。
沖縄の本土復帰記念事業の一環として、一九七五年(昭和五〇)七月二十日から六か月間、沖縄国際海洋博覧会(略称・海洋博)が本部半島を会場として開催された。メーンテーマは、「海 その望ましい未来」であった。そして、この海洋博を数年後に控え、空前の土地ブームが巻き起こった。臨時駐車場の造成などに躍起になった。多数の観光客をあてこんで、ホテル等の建築ラッシュとなった。まるで熱病の蔓延であった。土地ブームの一端を、沖縄タイムス社編・『沖縄大百科事典』は、次のように記述している。
単に会場周辺の本部半島のみならず、宮古・八重山の離島にまで広がった。農家の青年たちは土地を売った資金でダンプカーを購入し、土建業者のにわか下請けへと変身した。
土地の売買で、大金を手にした農家もあった。しかし、このにわか土地成り金に、大金の有効利用の方法など、あろうはずはなかった。投資家にしても、わずか六か月の海洋博開催期間中で、投資した元が取り戻せるはずはなかった。「これは、危ないぞ」と思った。不幸にして、その懸念は的中し、無残な爪痕が残った。
そのころ、高校の現場にいた私は、海洋博ブームを肌で感じながら、例の『法の哲学』の序文を思い起こしていた。フクロウは、日暮れになって飛び始めると。序文には、こうも書いてある。
「哲学は世界の思想である以上、現実がその形成過程を完了しておのれを仕上げたあとで、はじめて時間の中に現れる」
哲学は、実在的社会が成熟し、そして、かげり始めた時に表れるという。そのことを、海洋博ブームに引き当てて考えた。多数の人が熱にうかされ、フクロウに踊らされているのではないか、と考えた。そのことを学校現場での講話の材料にも使った。ブームは、人々が騒ぎ出すころには、すでに落ち目になっている。「事」は、フクロウが飛び出す日暮れでは遅すぎるのである。
―フクロウと海洋博ブーム―
島元巖
フクロウ(ミミズク・コノハズクを含む)は、フクロウ目フクロウ科の鳥だという。それは、一日も終わりに近い、夕暮れになってから活動を始める。糸満市字喜屋武では、フクロウを「マヤージクク」と呼んでいる。「ジクク」は「ミミズク」の「ズク」の系統語であろう。そして顔が、猫によく似ていることから「マヤージクク」と名付けたと思われる。
沖縄の本土復帰記念事業の一環として、一九七五年(昭和五〇)七月二十日から六か月間、沖縄国際海洋博覧会(略称・海洋博)が本部半島を会場として開催された。メーンテーマは、「海 その望ましい未来」であった。そして、この海洋博を数年後に控え、空前の土地ブームが巻き起こった。臨時駐車場の造成などに躍起になった。多数の観光客をあてこんで、ホテル等の建築ラッシュとなった。まるで熱病の蔓延であった。土地ブームの一端を、沖縄タイムス社編・『沖縄大百科事典』は、次のように記述している。
単に会場周辺の本部半島のみならず、宮古・八重山の離島にまで広がった。農家の青年たちは土地を売った資金でダンプカーを購入し、土建業者のにわか下請けへと変身した。
土地の売買で、大金を手にした農家もあった。しかし、このにわか土地成り金に、大金の有効利用の方法など、あろうはずはなかった。投資家にしても、わずか六か月の海洋博開催期間中で、投資した元が取り戻せるはずはなかった。「これは、危ないぞ」と思った。不幸にして、その懸念は的中し、無残な爪痕が残った。
そのころ、高校の現場にいた私は、海洋博ブームを肌で感じながら、例の『法の哲学』の序文を思い起こしていた。フクロウは、日暮れになって飛び始めると。序文には、こうも書いてある。
「哲学は世界の思想である以上、現実がその形成過程を完了しておのれを仕上げたあとで、はじめて時間の中に現れる」
哲学は、実在的社会が成熟し、そして、かげり始めた時に表れるという。そのことを、海洋博ブームに引き当てて考えた。多数の人が熱にうかされ、フクロウに踊らされているのではないか、と考えた。そのことを学校現場での講話の材料にも使った。ブームは、人々が騒ぎ出すころには、すでに落ち目になっている。「事」は、フクロウが飛び出す日暮れでは遅すぎるのである。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん