2003年06月10日
がじまん第25号
祭りのしたく
テレビ「美らさん」で一躍有名になった小浜島は、人口四〇〇人余の島である。珊瑚の石垣が続き、赤瓦の沖縄独特の屋敷構えは、庭が広くユッタリと建てられている。門を一歩入ると、屏風(ヒンプン)が立ち、母屋の目隠しになっている。
集落は碁盤の目になって、徒歩で行ける距離である。目当てのAさんの家もすぐわかった。苧麻(チョマ)を紡いでいるAさんは、突然の訪問者に笑顔で応じてくれた。八七歳で一人暮らし。「藍について話を聞かせてください。」と言うと、「今この絣を染めているが、少し薄いかなと思っているよ。」と経絣の玉を持ち出した。
見本と比べれば少し薄いが、藍はしっかりと染まっている。そして自分で織った着物を出して見せた。「いろんな方が見えるよ。」とその時撮った写真など見せてくれた。小さい頃、母親に、「上手に織らないと大変なことになるよ。」と教えられたそうだ。
この大変な事とは「人頭税」の事である。明治三六年一月の廃止まで、Aさんの母親の世代の人々は、それに苦しめられた。より細い糸、より薄い布を織るために、とても苦労したという。Aさんの世代は大正になっており、人頭税こそなかったが、それでも、毎晩、午前の一時二時ごろまで織り、姑に、健康のことで心配をかけたという。
翌朝はBさんがインド藍を刈るというので見学を約束していた。陽の上がらない内に刈るというので七時前に畑に行った。胸丈ほどに伸び、雑草を除きながら鎌で刈る。見ている内に自分もやってみたくなり手伝った。三人で一時間ほどかかった。切断しポリ容器に入れ水を張る。藍がたてば苧麻や芭蕉を染める。
Bさんの上布も見せてもらった。「孫が二十歳になるので、すでに二反は織ってあげたよ。」という。近くのCさんの家に寄る。やはり長男の物、次男の物を織ってあげたという。孫の男の子が十三になり、結願祭の一員になるので準備中だという。「そろそろ祭りの太鼓の稽古がはじまる。この細(こま)上布の襟を取り換えておかなくちゃ。男が汗だくになっているのは見ちゃあいられない。すぐ代わりのものを着せる。」と、鴨居の上布を手に笑う。
彼女らはこのように何年も前から、毎日家族の祭りの衣装の準備をしている。朝着る着物、夕方の着物、若者、中年、高齢者用と、縞の太さを変える。女物も絣・縞・上布と種類を変えて織る。織り上がると見せ合い、工夫を加える。この慣習をいつまでも守って欲しいものである。
(ブログ管理人 注:原文のまま「美らさん」と表記しましたが、NHKの連続テレビ小説のタイトルは正確には「ちゅらさん」とひらがなです。)
伊波悦子(後にペンネーム いなみ悦 を使用)
テレビ「美らさん」で一躍有名になった小浜島は、人口四〇〇人余の島である。珊瑚の石垣が続き、赤瓦の沖縄独特の屋敷構えは、庭が広くユッタリと建てられている。門を一歩入ると、屏風(ヒンプン)が立ち、母屋の目隠しになっている。
集落は碁盤の目になって、徒歩で行ける距離である。目当てのAさんの家もすぐわかった。苧麻(チョマ)を紡いでいるAさんは、突然の訪問者に笑顔で応じてくれた。八七歳で一人暮らし。「藍について話を聞かせてください。」と言うと、「今この絣を染めているが、少し薄いかなと思っているよ。」と経絣の玉を持ち出した。
見本と比べれば少し薄いが、藍はしっかりと染まっている。そして自分で織った着物を出して見せた。「いろんな方が見えるよ。」とその時撮った写真など見せてくれた。小さい頃、母親に、「上手に織らないと大変なことになるよ。」と教えられたそうだ。
この大変な事とは「人頭税」の事である。明治三六年一月の廃止まで、Aさんの母親の世代の人々は、それに苦しめられた。より細い糸、より薄い布を織るために、とても苦労したという。Aさんの世代は大正になっており、人頭税こそなかったが、それでも、毎晩、午前の一時二時ごろまで織り、姑に、健康のことで心配をかけたという。
翌朝はBさんがインド藍を刈るというので見学を約束していた。陽の上がらない内に刈るというので七時前に畑に行った。胸丈ほどに伸び、雑草を除きながら鎌で刈る。見ている内に自分もやってみたくなり手伝った。三人で一時間ほどかかった。切断しポリ容器に入れ水を張る。藍がたてば苧麻や芭蕉を染める。
Bさんの上布も見せてもらった。「孫が二十歳になるので、すでに二反は織ってあげたよ。」という。近くのCさんの家に寄る。やはり長男の物、次男の物を織ってあげたという。孫の男の子が十三になり、結願祭の一員になるので準備中だという。「そろそろ祭りの太鼓の稽古がはじまる。この細(こま)上布の襟を取り換えておかなくちゃ。男が汗だくになっているのは見ちゃあいられない。すぐ代わりのものを着せる。」と、鴨居の上布を手に笑う。
彼女らはこのように何年も前から、毎日家族の祭りの衣装の準備をしている。朝着る着物、夕方の着物、若者、中年、高齢者用と、縞の太さを変える。女物も絣・縞・上布と種類を変えて織る。織り上がると見せ合い、工夫を加える。この慣習をいつまでも守って欲しいものである。
(ブログ管理人 注:原文のまま「美らさん」と表記しましたが、NHKの連続テレビ小説のタイトルは正確には「ちゅらさん」とひらがなです。)
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
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