沖縄エッセイスト・クラブ

世情変転

　過日、ある郷友たちの会合に同席する機会があった。しばらくぶりの集会とあって、相互の近況披露や世間話など、よもやま話を咲かせていた。
　やや間をおいて、グラスが配られ、泡盛が注がれ、楽しい時が刻まれていった。そのうち、Ａさんが、突如、声を張り上げて、日常生活の上での世の中の変わりようについて話し始めた。
　「我が輩は、戦前、徴兵検査で甲種合格、戦地にも行った。当時の甲種合格者は日本人の標準的体格の持ち主で、男の中の男といわれていた。最近既成の背広を買い求めるため、衣料品店であれこれ物色してみたが上衣は肩幅はまあまあだが、袖が馬鹿に長い。どの店でも我が輩に合うのがなく、とうとう空回りのお手上げとなった。昭和の甲種合格者は平成の乙種に成り下がったものだ。」と、憤懣やるかたない様子でぼやいていた。傍らに座っていたＣさんも、「ワイシャツも肩幅に合わせると袖がやたらに長く、まるでピエロの装いだ。最近の衣料メーカーは若者のサイズに合わせ、高齢者への配慮がないようだ。」と、口をとがらせていた。Ｍさんは、「世の中は、おそろしく変わってきている。マスコミ報道の示すように、倒産、殺人、自殺、強盗、放火など、毎日のように画面や紙面をにぎわしている時勢だ。日本の社会は乱れているのではないか。」と、随分と力んだ口調で語っていた。
　街路を往来する人々の恰好や様相も変わってきた。赤信号の道を何食わぬ顔で平気で通り抜ける人の多いこと。国際通りあたりで、夏場によく見かける「おへそ丸出し」で、どこ吹く風かと闊歩する若い女性の姿は、流行のスタイルとは言え、そこまで涼を楽しむこともなかろうと、いただけない思いがする。最近は、老若男女を問わず、猫も杓子もケイタイ電話で街頭で話のやりとりをしているのが目につく。ケイタイを耳に当てて、歩きながらクスクス笑ったり、ゲタゲタ笑ったりしている。大声で怒鳴り散らし、挙句の果てには、街路脇のフェンスを足で蹴飛ばす姿などは正気の沙汰とは思えず、あわれさえ覚える。人々の日常行動の姿や変わりゆく様相、自殺、殺人、強盗、特に、子が親を、親がわが子を殺害するなど、通常の心情では、とうてい理解できないことである。
　この社会の世情の変転の様相は、成熟した社会のゆきつく末路なのであろうか。熟れすぎた果実が地上に落ち、つぶれてゆく、その末路を見るように思えてならない。