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2004年07月10日

がじまん第55号

エネルギッシュな六十代後半
末吉節子

 電話が鳴り、出てみるとY子であった。
「おっ、今日は家に居たね!」
 彼女の第一声に、なぜか謝る。
「ごめん。ほんと、留守ばっかりよね。」
「今晩空いている? コンサートの切符があるんだけど行かない?」
「ありがとう。詰まっているのよ。」
「残念ね。じゃあ、また。」で、電話は切れた。
 二週間前、演劇の前売り券を無駄にしたことを思い出した。急用で家を離れることになった。誰か代わりに行ける人を、急には探せなくて諦めた。
 Y子は親しい友人の一人である。共に伊是名の出身で、中学から高校一年までいっしょに過ごした。
 人間の価値観は、感性豊かな中学時代までに培われるもののほうが比重は大きいと聞いているが、彼女がそうだと、常々思っている。思いやりにたけ、世話好きである。私には思いやりはあるかもしれないが、後者のほうは微塵もない。
 学窓を出て、職種は同じでも、勤めていた世界が違う。そのことが、現在の二人の価値観に乖離をもたらしているようだ。いつだったか、彼女と待ち合わせをした。四十分待っても来なかった。一度は、用があるのでお邪魔したいと言われ、二時間も待たされた。二度も三度もそんなことをされると、友人のページからその人の名前を削除するところだが、彼女とはまだ親友のままだ。彼女の漂うばかりの色香が気になっているのも一つの理由である。六十手前にして夫に先立たれていたので、もったいないと思い再婚を勧めた。
「もう結婚はこりごりよ。待っていました結婚定年、待っていました独身貴族の仲間入りよ。それを捨てる手はないわ。」
 彼女の考えにいささか変化を感じ、すかさず押す。
「独身でいいんじゃない? 恋人を作ってよ。いい女が泣くよ。」
「そんなこと言わないでよ。とにかく男はもう要らないの。」
 そう言って、彼女は、今日は合唱団の一員としての稽古、明日は三味線、あさっては水泳、次の日は地域の女性たちのリーダーとして、弁を振るうのであった。


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