沖縄エッセイスト・クラブ

芝居「十二人の優しい日本人」を観て

　柄にもないが、私の姪っ子に石田ゆり子という女優がいる。妹の娘だ。妹はトンビがタカを生んだといっているが全くその通り。そのゆり子の出る芝居に招かれ、師走の東京へ行って観て来た。三谷幸喜作・演出というのが大きな魅力だった。タイトルは「十二人の優しい日本人」。場面展開の全くない、円卓を囲む議論だけの一幕で休憩なしの二時間だった。スピード感に溢れ迫力があり、そこここに笑いが散りばめられ、軽いようでいて人間の心の深い所が見えた内容であった。
　裁判員制度が導入された時の話で、民間から、くじで選ばれた十二人の裁判員。居酒屋のおやじさん、労働者、公務員、主婦、ＯＬ、役者、歯科医師、体育教師等、多種多様。お互い名前も職業も知らぬまま討議が始まる。因みにゆり子はメモ魔で人を見る目に長けていると自負しているＯＬ役。裁判の様子を観客に見せるわけでもなく、事件を説明するわけでもないのに、一人一人の発言によって事件の概要が分かってくる。
　被告は、うだつの上がらない飲んべえの夫と離婚している若い女性。事件は、何度か元夫から復縁を迫られていた被告が、その日も呼び出され、夕暮れの歩道に立って言い合いをしている間に、元夫が車道を通る大型トラックに轢かれて死亡。被告が押して殺した、いや元夫がやけになって自ら飛び込んだのだというように状況を推察し、有罪か無罪かを決める。裁判員は一人でも反対者がいると、全員一致になるまで議論を続けるものだそうだ。
　法律に関しては素人の各人が主張する有罪無罪の根拠となる視点がみな、生活から出てくるからおもしろい。例えば、被告が呼び出しの電話を受けた時、一人残る五歳の息子にピザを注文して出かける。この事は、その時すでに、元夫を殺す計画をしているので帰宅できない事を覚悟した上での行為という見方。一方、ピザは最小サイズでも五歳の子供では食べきれない、戻って一緒に食べるつもりであったに違いない、だから殺す計画はないという見方。このような、思いもよらない事実からの検証で、逆転に次ぐ逆転を繰り返しつつ最終的には全員一致で無罪となった。まさしく、タイトル通りだ。
　もし、自分が裁判員になったら……人の運命を決定づけることはそら恐ろしいが、弱い人を助けるためなら徹底的に議論し究明したいという思いも大きい。二時間の留めどない言葉のバトルに快い疲労感を覚えてパルコ劇場を後にした。