2007年09月15日
がじまん第133号
きわたの絮の飛ぶころ
五月三十日、西原町坂田交差点で信号待ちをしていたら、目の前を蒲公英(たんぽぽ)の絮が風に乗ってふわふわと飛んでいるように見えた。
「こんなに高く風に乗って、すごいなあ、しかもこんなにたくさん。まてよ、この辺に蒲公英なんてないよ」と思ううちに信号は変わり発車した。
「そうだ、キワタだ、坂田通りの街路樹はキワタ並木だ」用事を済ませ、次に行った銀行への帰り道並木を見上げた。高さが十数メートルにもなった樹は、新緑も終わり濃い緑色の葉を茂らせ、その中に楕円形の拳大の黒っぽい実がたくさんぶら下っていた。足下を見ると弾けた実が落ちている。横断歩道を渡りスーパーの前を見ると、一面に絮が吹き溜りになって覆い尽くしている。「まあー」、初めて見る光景である。残雪が日陰に残っているようである。
風に乗りて木綿の絮の辻にかな 悦
どうしてこんなに絮が飛んだのか、帰宅するなり新聞の天気欄を見た。北西の風八メートル、梅雨前線が沖縄の南海上に南下する。波高は一・五メートルとあった。因に、二日前の予報図は南の風七メートルである。なるほど少し風が強かったのだ、と思った。
それから四日後新聞の一面のカラー写真に〝南国の空の下、降る白雪〟として北谷の公園で舞うキワタの写真があった。前日の天気図を見ると風速十メートルとあった。
きわたの花を『沖縄歳時記』で調べてみると、「インド、ビルマ、中国雲南地方、オーストラリア北部などに広く分布するパンヤ科の落葉高木。高さが二十五メートル以上にもなり幹には太い円錐形の刺が密生する。花期は三月~五月で赤色~オレンジ色の五弁花である。初夏に拳大の果実ができ、割れると綿毛が出てくる。」とある。解説通り目の当たりに見ることができ、使える季語が一つ増えた。
家路行く木綿の花の夕あかり 美帆
木綿の実弾け夜更けの遠太鼓 悦
似たような経験を十年前にしたことがある。夏休みにチベットの中学校を訪ねた時のことである。校庭中に真っ白い絮が飛んでいる。聞くと柳の絮だという。広い校内の柳が一斉に吹き出して花壇も教室の渡り廊下も広場も吹き溜まっている。これを柳絮という。白楽天に「柳色は烟のごとく絮は雪のごとし」と詠まれている。また、『和漢三才図会』には「其の花の中に細かき黒き子を結ぶ、蘂落ちて絮出ること白き絨の如し、風に因って飛ぶ」とある。
漢族の師の案内かな柳絮舞う 悦
柳絮飛ぶ天に間近きポタラ宮 悦
吹かれくる柳絮の中の百済かな 鴻司
旧城市柳絮とぶことしきりなり 虚子
梅雨晴れ間の風と植物のひと時のショーを見せてもらい、感激の一コマであった。
いなみ悦
五月三十日、西原町坂田交差点で信号待ちをしていたら、目の前を蒲公英(たんぽぽ)の絮が風に乗ってふわふわと飛んでいるように見えた。
「こんなに高く風に乗って、すごいなあ、しかもこんなにたくさん。まてよ、この辺に蒲公英なんてないよ」と思ううちに信号は変わり発車した。
「そうだ、キワタだ、坂田通りの街路樹はキワタ並木だ」用事を済ませ、次に行った銀行への帰り道並木を見上げた。高さが十数メートルにもなった樹は、新緑も終わり濃い緑色の葉を茂らせ、その中に楕円形の拳大の黒っぽい実がたくさんぶら下っていた。足下を見ると弾けた実が落ちている。横断歩道を渡りスーパーの前を見ると、一面に絮が吹き溜りになって覆い尽くしている。「まあー」、初めて見る光景である。残雪が日陰に残っているようである。
風に乗りて木綿の絮の辻にかな 悦
どうしてこんなに絮が飛んだのか、帰宅するなり新聞の天気欄を見た。北西の風八メートル、梅雨前線が沖縄の南海上に南下する。波高は一・五メートルとあった。因に、二日前の予報図は南の風七メートルである。なるほど少し風が強かったのだ、と思った。
それから四日後新聞の一面のカラー写真に〝南国の空の下、降る白雪〟として北谷の公園で舞うキワタの写真があった。前日の天気図を見ると風速十メートルとあった。
きわたの花を『沖縄歳時記』で調べてみると、「インド、ビルマ、中国雲南地方、オーストラリア北部などに広く分布するパンヤ科の落葉高木。高さが二十五メートル以上にもなり幹には太い円錐形の刺が密生する。花期は三月~五月で赤色~オレンジ色の五弁花である。初夏に拳大の果実ができ、割れると綿毛が出てくる。」とある。解説通り目の当たりに見ることができ、使える季語が一つ増えた。
家路行く木綿の花の夕あかり 美帆
木綿の実弾け夜更けの遠太鼓 悦
似たような経験を十年前にしたことがある。夏休みにチベットの中学校を訪ねた時のことである。校庭中に真っ白い絮が飛んでいる。聞くと柳の絮だという。広い校内の柳が一斉に吹き出して花壇も教室の渡り廊下も広場も吹き溜まっている。これを柳絮という。白楽天に「柳色は烟のごとく絮は雪のごとし」と詠まれている。また、『和漢三才図会』には「其の花の中に細かき黒き子を結ぶ、蘂落ちて絮出ること白き絨の如し、風に因って飛ぶ」とある。
漢族の師の案内かな柳絮舞う 悦
柳絮飛ぶ天に間近きポタラ宮 悦
吹かれくる柳絮の中の百済かな 鴻司
旧城市柳絮とぶことしきりなり 虚子
梅雨晴れ間の風と植物のひと時のショーを見せてもらい、感激の一コマであった。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん