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2007年10月15日

がじまん第135号

アカバナー
儀間進

 戦後、仏桑花の花はすっかりイメージが変わった。
 花の色は赤が多いので、「アカバナー」と呼ばれている。赤い花は緑に映えて美しい。だが、昔は暗い花だった。別名、グショウバナ(後生花)ともいう。墓参のときに、アカバナーを供えていたからであろう。
 花は花柱が細長く伸びて、先端は黄色い雄しべの中から雌しべが顔を出している。幼い子供がアカバナーを持っていると、大人はすばやく花の芯を折り取った。
 とにかく、大人は子供がアカバナーで遊ぶことを忌み嫌った。とはいっても、子供たちはアカバナーの花でよく遊んだ。一番多かったのは、左手の親指と人差し指で丸く輪を作り、その中に花びらを押し込み、くぼみをつける。それを右手で上からポンと叩く遊びだった。すると、かすかな音がして花弁が破れた。
 ときには花びらを掌にこすりつける。すると薄紫の色がつく。それに紫カタバミの葉柄で丸や三角、文字を書いた。文字や絵が浮き出るのが面白くて、何度も描いて遊んだ。紫カタバミは酸性度が強いので、アカバナーの汁がリトマス紙の代わりになっていたのであった。幼いころはそんなことは知らないので不思議だった。
 アカバナーの花びらを親指と人差し指で挟んで、破らないように軽くすると、内部の細胞が崩れて、表と裏の間に隙間ができる。切り口の方から強く息を吹き込むと、花びらに小さな風船のようなふくらみができた。それが、結構不思議で面白かった。
 これは遊びというか、どうか。石のくぼみに葉っぱを入れ、水を加えて棒状の石で何度も何度も叩く。すりつぶされた葉っぱはぬるぬる状態になる。さらに水を加えて叩き続けると、粘度の強い透明の薄い液ができる。べつにそれで何かを作るわけではなかったが、ときおり糊状の液を作って楽しんだ。当時の婦人は、カンプーを結っている髪につやを出すだめ、アカバナーの液で髪を洗ったとか。本当か、どうかは定かではない。
 子供のころは、よく結膜炎にかかった。眼科医院には通わなかったから朝起きると、目やにでまぶたがふさがって目が開かなかった。そのときはアカバナーの花を湯に浸して、それで目を軽くこすって目やにを取り除いた。目にいいと信じられていた。
 とはいえ、アカバナーはやはり墓地に供える花、暗いものとして扱われていた。
 ところが、沖縄がリゾート観光地として脚光を浴び始めると、南国の明るい花として持て囃されるようになった。名前も変わった、仏桑花ではない。ハイビスカスなのだ。原色の花を髪にかざして、にっこり笑っている観光用の少女の写真もある。
 ハイビスカスは明るくても、アカバナーは、やはり暗い。明るく華やぐ観光地の陰には戦跡が隠れているように、アカバナーも暗さを秘めている。それを忘れたくない。


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