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2009年03月20日

がじまん第162号

異風な健康法
大城盛光

「タキフドゥニ ヲゥジティドゥ ムノー カムル」(体格に応じて食事はするものだ)、という沖縄の言いならわしがある。大食いはするな、という戒めのフレーズである。貧しい時代には、たまに食べ物が多く準備されると、つい多めに食べてしまうのを制止した言葉であったのだろう。目の前に美味しいものがあると、ついつい手を伸ばしてしまうのは、昔も今も変わりないようだ。
 職場においては、職員が代わる代わるお菓子の類を持ち寄るし、家に帰れば、冷蔵庫には飲み物や果物などが冷やされ、食卓にも果物があって、その傍を通る度に何の気なしに手を伸ばしてしまう。周りには、食い気を誘うチャンスがいっぱい。口に負けたツケは、腹回り(腹囲)増にきた。人間ドックのたびに、医師の問診で、「体重を減らしなさい」と言い続けられ、検診結果のお知らせでも、「生活習慣の改善」のために体重減を明記されたりしていた。退職間際のドックでは、背丈と体重のバランスから十キログラム減らせ、とのことであった。
 定年退職となり、早速、ジョギングを始めることにした。自宅の傍には旧県道の廃道があるので、そこを利用してのジョギングである。走り出してみると、爽快そのもの。けれども、どだい、アチベー(熱い灰は冷め易い)の性質(たち)、半年ほどで頓挫してしまった。
 退職して初めての人間ドックがやってきた。マイナス面の多い検診になるだろうと思いながらのドックであった。
 問診の医師は、女医さんであった。「生活習慣の改善」の話になって、三十代と覚しきその女医さんは、「体重を減らすには、歯のブラッシングの励行も一つの方法。食後、いや、間食後も、必ずブラッシングする習慣を身に付けてみて下さい」と、にっこり笑って言う。歯を磨けば体重減、はて、「?!」、分かったようで分からないような生返事をして問診室を出た記憶である。「歯を磨けば減量」、風吹けば桶屋が儲かる式の謎めいた言葉にほだされて、間食後も欠かさず歯磨きを実行してみたのであった。
 日本歯科医師会の唱える八〇二〇(八十歳まで歯を二十本残す運動)を狙ったわけではない。頭には一途に減量のみ。右実行しがてらも口には負けて甘いお菓子やドリンクなどに手を出したりしながら、女医の言葉に攀じ登ってみたのであった。一年経つと、目標にはほど遠いが、手ごたえがあったのである。歯磨けば減量、その因果関係は、パラドックス風に言えば、「歯磨き」と掛けて「減量」と解く。その心は「面倒くさい」とでもなるだろうか。七面倒さが、ユルジナムン(お菓子・果物など)に手を伸ばすのを押し止めたとでも言えようか。
 あれから、一年後、人間ドックが巡ってきた。件の女医さんに会えるのを期待して臨んだのだが、問診は、別のお医者さんであった。


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