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2009年09月20日

がじまん第174号

日食観察隊
南ふう

 高校の同級生で好奇心旺盛な友人と私、二人揃えば鬼に金棒、合わせて百歳を超えるおばさんとは思えない行動に出る。このたびは日食観察隊だ。彼女に言わせれば私が斬り込み隊長で、彼女が補佐だとか。どっちがどっちとも言えないが、二人きりの観察隊は、ともかく私の運転で早朝から本島北端を目指した。
 七月二十二日は、トカラ列島を中心に種子島南部から奄美大島北部にかけて皆既日食。那覇よりも食分の大きな本島北部で、できるだけ細い太陽を見たくて準備を整えてきた。日食グラスはもちろん、ピンホールを利用した手作りの観察装置も用意した。
 ところが許田インターを下りるころ、北の空は怪しい雲に覆われ始めていた。南の空を振り返ると、青い。天気予報では日食の中心の悪石島は天候がすぐれない、したがって北部に行くのはよくないと、隊長補佐が進言した。隊長は進路変更を即決した。臨機応変、いくら細い太陽を望んでも、曇って太陽自体が姿を現さなければ話にならないのだ。
 世冨慶の交差点を右折し、東海岸へ抜け、国道329号を南下。隊長補佐は方位磁石を取り出して、一番天気のよさそうな方角を測る。その方角にあって観察に適していると思われる場所は…。日食のピーク、十時五十四分頃までに到着可能な勝連城跡が最適と結論を出す。
 日食は九時半頃から始まっている。駐車スペースのある場所で車から降り、上部が少し欠けた太陽を日食グラスで確認して喜んでいると、やや離れた場所に家族連れのワゴン車を発見、彼らも観察隊の同志だと分かるのは、父親が大きなダンボール箱を取り出しているからだ。ピンホールから投影される太陽の像を、箱の底に映し出す手作り装置のはずだ。
 同志に刺激された私も、接続すると一メートルにもなる円筒を取り出した。われながら力作の、四段連結という凝りよう。長くするほど投影される像は大きくなるが、小さな穴から差し込む光を円筒の底に捕らえるには、角度コントロールが難しくなる。手始めに二段連結で円筒の底に太陽の像を捕らえると、確かに一部欠けている小さな太陽。四段すべての連結でも、太陽捕獲に成功した。
 南下しながら観察を繰り返す毎に太陽は細くなっていき、勝連が近くなった頃、隊長補佐が叫んだ。「太陽の周りに、丸い虹がでてる!」と。
 勝連城跡到着は、計ったように十時五十三分。駐車場で細ーい太陽を観察した後、城跡に向かった。あたりは奇妙に薄暗い。夕暮れともまた違う、青白い空気感。ひんやりと気温も低く、さらには静寂が漂う。
 勝連城跡のてっぺんには大勢の人、世界遺産で神秘的な天体ショーを見る体験は、そうそう有るものではない。円筒での太陽捕獲や撮影において、光量不足も実感できた。
 城跡から下りる頃には太陽が光を取り戻し始め、徐々に辺りが騒がしくなった。蝉時雨だ。日食の間、蝉も異変を感じ取り、夕方と勘違いしていたかも知れない。感動の観察を終えた隊長と補佐はその任務を解き、昼食に向かった。


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