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2010年02月10日

がじまん第184号

したたかな音声の記憶
宮里尚安

 壺井栄の小説「二十四の瞳」が昭和二十九年に映画化され、宮古島の小学・中学では団体見学のラッシュとなった。私は小学校の高学年であったと思うが、平良市の映画館に三つの学校の生徒が詰め込まれての見学であった。
 他校生徒たちの聞き慣れぬ訛りある会話が飛び交う中でかすかにおびえながらも、昼間の暗闇に身を浸しスクリーンに見入った。内容は断片的にしか記憶に残らなかったが、入院した大石先生(高峰秀子)を見舞おうと、十二人の子どもたちは片道二里の道を歩いていく。陽が傾きはじめる。「カラスなぜ鳴くの」がやさしく流れる中を、歩き疲れて泣きじゃくる場面になると観客の中に異変が起きた。あちこちですすり泣きがする。驚いて見渡すと、近くの席の女の子たちが手で顔を覆いながら泣き出しているのだ。
 面くらって隣の男子たちを見ると誰もが困惑して恥ずかしそうにしている。仕方なくスクリーンに直角に正していた姿勢を崩し、少し伏目がちに観ることにした。やはり、感動の涙を流さずには観られぬ名作だったらしい。
 さて問題は、タイトル「二十四の瞳」の中の「二十四」の読み方である。引率の先生は、ニジュウヨンであった。そのため、私たち生徒はニジュウヨンでずっと記憶して来た。
 ところが、五年程前に「四」はヨンではなく、シの読み方が正しいと主張する人に出会ってしまった。目の不自由な人たちへの読み聞かせのテープを作成するサークルに関わっている中で「二十四の瞳」の音訳で私が「ニジュウヨンノヒトミ」と読んだところ、会員の一人に「ヨンではなくシです」と鋭く指摘された。
「小学校の映画見学の時に先生はそう読んでいました」と言うと、「それは沖縄だけの読み方でしょ?」と追い討ちを掛けられた。ヤマトからウチナーヨメになったという婦人の勝ち誇った音声が耳に残り、さっそく「ヨン」か「シ」かを確かめるべく原作を見たが、ふりがなはつけられていない。映画雑誌でポスターを見たがふりがなはない。大辞典で作者の項を引くと「二十四の瞳」はあるが、「四」ではなく「瞳」にふりがなはある。
 おもしろいことに気づいた。新しく発刊された文庫本の奥付には「ニジュウシ」とふりがながつけられるようになった。パソコンでも「ニジュウシ」で出る。ヨンとかシとか読まれて紛らわしいことにケリをつけたのか。
 沖縄の五十代以上の人に「二十四の瞳」の映画を聞くと、ほとんどの人が「ニジュウヨンのひとみ」とすんなり答えてくれる。私も「ヨン」のままで通している。
 それにしても、小学一年生の漢字のよみに動物の数え方を、「四ひき」を「しひき」と読ませる教材があるのには違和感がある。


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