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2011年02月05日

がじまん第207号

二つの電話            
儀間進

「しばらく会わないが、達者でいるか」
 受話器の向こうから聞こえてきたのは、久しぶりに耳にするI君の声だった。
 数年の間、彼の所在はまったく掴めなかった。浦添に居るとか、与那国にいるという噂が流れた。友人の一人が知人に頼んで探してもらったが、その島には彼の影すらなかったという。千葉に住んでいるともいわれたが、確かなことは誰も知らなかった。
そんな彼からの思いがけない電話に、声がはずんだ。
「おい、元気か。どこにいるのか」
 返事は、船の上にいるという。船? と問い返すと、インドネシア沖でマグロを釣っているという意外な話だった。しばらく、友人の誰彼の近況を語り合って電話は切れた。その後、彼はひんぱんに電話をかけてきた。人は老いると昔の友がやたら恋しくなるとか。異郷の地で彼も寂しいのだなと感じた。
 しばらくして妹さんだという方から、いきなり兄のIが昨日亡くなりましたとの報せを受けた。思わず、え? と叫んだきり頭の中が空白になった。
 同じ年の七月、久しく会っていない高校時代の友人H君の声が聞きたくて電話をしたら不在。日が暮れてから再び電話したがダメだった。彼は独り暮らしなので、家を空けるのが多かった。朝の十時ごろなら居るだろうと思って掛けても、ベルの音が空しく聞こえてくるだけ。四、五日続けて朝夕電話を掛けたが、電話の主は出なかった。変だと思いながらも、それっきりになった。
 ところが、八月も終わるころ、彼は七月初めに亡くなったという報せがきた。私がしきりに会いたがっていたころ、彼は亡くなっていたのだった。友達の誰ひとり彼の死去を知らなかった。孤独死に近かったらしい。
 二つの電話。I君の電話とH君への電話は、二人の魂(マブイ)が永遠の別れを暗に告げていたのだろうか。そんな気がしてならない。


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