2011年07月20日
がじまん第218号
朝の捕物帖
五月の下旬、いつものように新聞を取り、朝食の準備をし、宿六を出勤させれば後はフリータイムだ。玻璃越しに庭に目をやると何かいつもと違う。白い物体が芝生の上にある。もう少し目を凝らしてみると、犬が死んでいるように見えた。もし本当に死体だったらどうしよう。心臓がドキドキした。
私はこれまで動物を飼ったことがなく、どうも苦手で近寄れない。すぐに娘に電話をすると、出勤前にもかかわらずとんできた。「息しているよー」と言う。娘は、飼っていた犬が散歩中逃げ出し、翌日近所でひき殺されていたのを探し当てたことがある。役場に「すぐやる課」なるものがあり、すぐ対応してくれたようだ。私は外出の予定があることを伝えると、「じゃあ早く来るように役場に電話しておくね」と去った。しばらくして「担当の者が集り次第来るそうよ」と連絡があった。
でも、どうして家の庭に来たの、階段まで上がって。庭の片隅で植木鉢の並ぶ奥まった所に倒れてくれてよかった。ガレージ近くだと出入りもできなかった。などと考えている間も目を離せないので見張っていたが、本当に生きているのか、遠くから散水用のホースで水をかけてみた。ビクッと一度だけ身震いし、左耳はピーンと立ったままである。そのうちにヨロヨロと立ち上がり、一歩二歩、歩いて石蕗の根本にダウンした。家事をしながらちょっと覗くと一メートルほど動いていた。
午前九時前後、思いのほか早く役場の人はやってきた。待ち受けていた私は、作業服の二人を案内した。首輪を持ち上げて二言三言話し合った後、道具を取りに一トントラックに戻ると、ガタゴトガタゴト、ガラガラガラガラ、ものすごい金属音を響かせながら、一メートルほどの立方体の檻を運び込んだ。そんな大げさにと思いつつ見ていた。道具は棒の尖端に紐で「輪」を作り操作するもの。あの蛇捕り用の棒を二、三倍大きくしたものだ。よく新聞で蛇を捕獲しましたと警官が持ち上げているアレだ。
輪を頭からいれ持ち上げて立たせ、歩けと促しているが歩く気配はない。一気に片手で引っ張り上げ、檻へ放り込んだ。何とあっけないことか。あっぱれである。檻を運び出し、書類を持ってきた。発見時などの経緯を記入し、通報により我々はこの犬を引き取ります、と署名捺印をした。「どうしたんでしょうかね」と聞くと、「毒薬を食べたのでしょう。お尻から血を流していましたよ」とのこと。「首輪があるので、番号から飼い主がわかりますから連絡しておきます」と言い、帰った。
娘に報告すると、「飼い主がわかったかね」と心配したが、其処までは役場に報告の義務はない。生活安全課か保健衛生課か確認はしていないが、このように素早く対処してくれるのは有り難いことだと、感謝に堪えない。
いなみ悦
五月の下旬、いつものように新聞を取り、朝食の準備をし、宿六を出勤させれば後はフリータイムだ。玻璃越しに庭に目をやると何かいつもと違う。白い物体が芝生の上にある。もう少し目を凝らしてみると、犬が死んでいるように見えた。もし本当に死体だったらどうしよう。心臓がドキドキした。
私はこれまで動物を飼ったことがなく、どうも苦手で近寄れない。すぐに娘に電話をすると、出勤前にもかかわらずとんできた。「息しているよー」と言う。娘は、飼っていた犬が散歩中逃げ出し、翌日近所でひき殺されていたのを探し当てたことがある。役場に「すぐやる課」なるものがあり、すぐ対応してくれたようだ。私は外出の予定があることを伝えると、「じゃあ早く来るように役場に電話しておくね」と去った。しばらくして「担当の者が集り次第来るそうよ」と連絡があった。
でも、どうして家の庭に来たの、階段まで上がって。庭の片隅で植木鉢の並ぶ奥まった所に倒れてくれてよかった。ガレージ近くだと出入りもできなかった。などと考えている間も目を離せないので見張っていたが、本当に生きているのか、遠くから散水用のホースで水をかけてみた。ビクッと一度だけ身震いし、左耳はピーンと立ったままである。そのうちにヨロヨロと立ち上がり、一歩二歩、歩いて石蕗の根本にダウンした。家事をしながらちょっと覗くと一メートルほど動いていた。
午前九時前後、思いのほか早く役場の人はやってきた。待ち受けていた私は、作業服の二人を案内した。首輪を持ち上げて二言三言話し合った後、道具を取りに一トントラックに戻ると、ガタゴトガタゴト、ガラガラガラガラ、ものすごい金属音を響かせながら、一メートルほどの立方体の檻を運び込んだ。そんな大げさにと思いつつ見ていた。道具は棒の尖端に紐で「輪」を作り操作するもの。あの蛇捕り用の棒を二、三倍大きくしたものだ。よく新聞で蛇を捕獲しましたと警官が持ち上げているアレだ。
輪を頭からいれ持ち上げて立たせ、歩けと促しているが歩く気配はない。一気に片手で引っ張り上げ、檻へ放り込んだ。何とあっけないことか。あっぱれである。檻を運び出し、書類を持ってきた。発見時などの経緯を記入し、通報により我々はこの犬を引き取ります、と署名捺印をした。「どうしたんでしょうかね」と聞くと、「毒薬を食べたのでしょう。お尻から血を流していましたよ」とのこと。「首輪があるので、番号から飼い主がわかりますから連絡しておきます」と言い、帰った。
娘に報告すると、「飼い主がわかったかね」と心配したが、其処までは役場に報告の義務はない。生活安全課か保健衛生課か確認はしていないが、このように素早く対処してくれるのは有り難いことだと、感謝に堪えない。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん