2012年06月05日
がじまん第239号
朝の捕物帖(二)
表題の文を昨年も書いたが、我が家でまた事件が起きた。
昨年十月、長年住んだ家の一部を改修することになった。解体工事には大型ユンボが必要で、その進入路と建坪確保のため周りの防風林を伐採しなければならない。まずはガレージを取り払い、小型ユンボが低い石垣を乗り越えてやってきて、植木鉢や瓦礫を運び去った。物置小屋のトタン屋根は人力でめくり、あっと言う間に壁だけになった。厨のセメント瓦は一枚ずつ手渡しでトラックへ。小屋組は、ピラミッドの形のままユンボでひょいと持ち上げて傍の空き地へぽいっと下ろした。あとは長方形の壁のブロックを崩すだけである。傍で見ていると、いとも簡単である。二坪ほどの湯殿もいくらもかからない。プレハブの物置も一時間程度で元のパーツに戻され重ねてある。職人ってすごい。
いよいよ木の伐採だ。細い雑木・赤木・仏桑花・蒲葵やバンシルーなどを切り倒し、トラックへ。翌日は福木の番で、下からチェーンソーで枝打ちをし、順繰りに上へと登っていく。途中隣の木へ渡り枝打ちをする。見事な仕事ぶりである。私は離れて高見の見物をした。こういう職人技はめったに目にすることがないので、しっかり見ていた。
その時、「ハブだっ!」上にいる職人が叫んだ。「長い竹を投げろ! 隣の木に巻いている。中くらいだ!」
一同びっくりすると同時に、周りに適当な棒を探している。私は普段から家の壁に長い棒を置いて万一に備えている。すぐに「はい、これ」と下にいる人へ投げた。受け取った男性はそれを上へと投げる。四、五メートルも上なのでなかなかうまく掴めず、五、六回目にやっと届いた。
「打ち落とすからしっかり叩けよ!」
下にいる三名の男性は、スコップや木切れなどを持って身構えた。ハブは一撃で上からひょろっと落ちた。懸命に叩いたが、木の枝の散乱した足場では空振りだ。都合悪く石垣があり、ハブにとってはラッキーで、あれよあれよという間に逃げられてしまった。
「あーあっ! 残念」みんながっかりした。
「なぜそんな高い場所にいるのですかね」と大将に聞くと「目白などの小鳥をねらっているのだろう」と、いとも簡単に答えた。
その日から私は、ハブの逃げ込んだ場所から少しでも離れて歩いた。
翌日からは大型ユンボが登場した。どっしりと太い福木は短く切られて屋敷内に落とされた。根を掘り起こすのは至難の業であった。押しても叩いても、びくともしない。まさに屋敷を守っていたのだ。
樹齢二百年以上のあまりにも見事な福木を、物差しで測ってもらった。ゆうに五十センチ以上の直径であった。
いなみ悦
表題の文を昨年も書いたが、我が家でまた事件が起きた。
昨年十月、長年住んだ家の一部を改修することになった。解体工事には大型ユンボが必要で、その進入路と建坪確保のため周りの防風林を伐採しなければならない。まずはガレージを取り払い、小型ユンボが低い石垣を乗り越えてやってきて、植木鉢や瓦礫を運び去った。物置小屋のトタン屋根は人力でめくり、あっと言う間に壁だけになった。厨のセメント瓦は一枚ずつ手渡しでトラックへ。小屋組は、ピラミッドの形のままユンボでひょいと持ち上げて傍の空き地へぽいっと下ろした。あとは長方形の壁のブロックを崩すだけである。傍で見ていると、いとも簡単である。二坪ほどの湯殿もいくらもかからない。プレハブの物置も一時間程度で元のパーツに戻され重ねてある。職人ってすごい。
いよいよ木の伐採だ。細い雑木・赤木・仏桑花・蒲葵やバンシルーなどを切り倒し、トラックへ。翌日は福木の番で、下からチェーンソーで枝打ちをし、順繰りに上へと登っていく。途中隣の木へ渡り枝打ちをする。見事な仕事ぶりである。私は離れて高見の見物をした。こういう職人技はめったに目にすることがないので、しっかり見ていた。
その時、「ハブだっ!」上にいる職人が叫んだ。「長い竹を投げろ! 隣の木に巻いている。中くらいだ!」
一同びっくりすると同時に、周りに適当な棒を探している。私は普段から家の壁に長い棒を置いて万一に備えている。すぐに「はい、これ」と下にいる人へ投げた。受け取った男性はそれを上へと投げる。四、五メートルも上なのでなかなかうまく掴めず、五、六回目にやっと届いた。
「打ち落とすからしっかり叩けよ!」
下にいる三名の男性は、スコップや木切れなどを持って身構えた。ハブは一撃で上からひょろっと落ちた。懸命に叩いたが、木の枝の散乱した足場では空振りだ。都合悪く石垣があり、ハブにとってはラッキーで、あれよあれよという間に逃げられてしまった。
「あーあっ! 残念」みんながっかりした。
「なぜそんな高い場所にいるのですかね」と大将に聞くと「目白などの小鳥をねらっているのだろう」と、いとも簡単に答えた。
その日から私は、ハブの逃げ込んだ場所から少しでも離れて歩いた。
翌日からは大型ユンボが登場した。どっしりと太い福木は短く切られて屋敷内に落とされた。根を掘り起こすのは至難の業であった。押しても叩いても、びくともしない。まさに屋敷を守っていたのだ。
樹齢二百年以上のあまりにも見事な福木を、物差しで測ってもらった。ゆうに五十センチ以上の直径であった。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
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