2012年07月05日
がじまん第241号
沖縄の夏
沖縄の夏はどこよりも早く訪れます。四月の半ばには、公務員・会社員の背広姿が、軽い「かりゆしウェアー」に変わります。我が家にもその一人がいて、衣替えの前後には、さまざまな沖縄調の柄のシャツがずらりとハンガーに吊るされ、まるで、のぼりばたのよう。丹念にアイロン掛けをした嫁の心も映しています。十着は優に超すだろうに、一つとして同じ柄がないことにいたく感心。展示物でも鑑賞する気分でしばし眺めていると、注意深く見なくては分らないが、ゴーヤーを輪切りにした輪をリンクして出来た柄がなかなかおもしろい。街行く人たちを見ても、みな、気の利いた柄を自分らしく上手に着こなし闊歩している姿は壮観です。クールビズの勢いに乗って全国デビューした「かりゆしウェアー」、デザイナーの方々も次から次へと新しいアイディアを生み出し、やり甲斐を覚えているにちがいありません。
ゴーヤーといえば、夏の沖縄の食卓には欠かせない食材です。先ごろ、本土在住の姪っ子の家族が帰省した際、「やっぱりこれは夏の沖縄で食べるのが一番だね」と喜ばれた一品があります。ゴーヤーと玉葱をスライスして三杯酢で和え、シークヮーサーの汁をかける酢の物です。我が家に滞在中、食卓に上らない日はなかったほどです。
さて、沖縄と青い海・澄みきった空は切り離せないイメージだと思いますが、沖縄だけの公休日があることを他県のどのくらいの方がご存知でしょうか。それは六月二十三日、「慰霊の日」で、梅雨が明け本格的な夏到来の頃です。全県各地で戦没者の慰霊祭が行われます。炎天下、幼児も老人も慰霊塔の前に足を運び、静かに合掌し鎮魂と平和を祈るのです。先だっての慰霊祭では、小・中学生が自分たちで育てたオオゴマダラを三百匹大空に放ち、平和への切実な願いを託しました。
沖縄には、なかなか解決されない問題が多く、気分も沈みがちですが、忍耐強く前向きの気持ちを失わない県民性は、明るく賑やかな事を創り出すのが得意です。その一つ、お祭り好きなのです。この時期、各地で夏祭り、エイサー祭り、各種イベントが目白押し。国の重要無形民俗文化財に指定されている宮古島の「多良間の八月踊り」は、三日間にわたり多良間独特の芸能が披露され、沖縄を代表する豊年祭だといわれています。石垣島の「四(し)ケ(か)村(むら)プーリィ(豊年祭)」もこれと共通するところが多く、私は幼い頃から身近に接し、感動や活力を全身で受けていたものです。これも国選択無形民族文化財の一つ。そのほか、芸能祭り、保育園単位のかわいらしいお祭りなども行われ、いつでもどこかで祭囃子が鳴り響いているありさまです。
とり分け、「エイサー」は沖縄の夏の風物詩と言っても過言ではないでしょう。本来は旧盆に欠かせない宗教的行事として行われたようですが、現在に至っては、格式ある伝統に近代的要素を組み入れ、青少年が大太鼓やパーランクーを打ち鳴らしつつ、勇壮かつ風流を醸して踊ります。その様子は老若男女を虜にしてしまいます。パワー溢れる若者たちには、新風の中にもしっかりと伝統を受け継ぎ、精いっぱい自己を表現してもらいたい。そしてその瑞々しいエネルギーが沖縄の幸せにつながるよう願ってやみません。
(二〇〇九年六月、NHKラジオ第一 九州・沖縄「季節のエッセー」として放送されたものです)
内間美智子
沖縄の夏はどこよりも早く訪れます。四月の半ばには、公務員・会社員の背広姿が、軽い「かりゆしウェアー」に変わります。我が家にもその一人がいて、衣替えの前後には、さまざまな沖縄調の柄のシャツがずらりとハンガーに吊るされ、まるで、のぼりばたのよう。丹念にアイロン掛けをした嫁の心も映しています。十着は優に超すだろうに、一つとして同じ柄がないことにいたく感心。展示物でも鑑賞する気分でしばし眺めていると、注意深く見なくては分らないが、ゴーヤーを輪切りにした輪をリンクして出来た柄がなかなかおもしろい。街行く人たちを見ても、みな、気の利いた柄を自分らしく上手に着こなし闊歩している姿は壮観です。クールビズの勢いに乗って全国デビューした「かりゆしウェアー」、デザイナーの方々も次から次へと新しいアイディアを生み出し、やり甲斐を覚えているにちがいありません。
ゴーヤーといえば、夏の沖縄の食卓には欠かせない食材です。先ごろ、本土在住の姪っ子の家族が帰省した際、「やっぱりこれは夏の沖縄で食べるのが一番だね」と喜ばれた一品があります。ゴーヤーと玉葱をスライスして三杯酢で和え、シークヮーサーの汁をかける酢の物です。我が家に滞在中、食卓に上らない日はなかったほどです。
さて、沖縄と青い海・澄みきった空は切り離せないイメージだと思いますが、沖縄だけの公休日があることを他県のどのくらいの方がご存知でしょうか。それは六月二十三日、「慰霊の日」で、梅雨が明け本格的な夏到来の頃です。全県各地で戦没者の慰霊祭が行われます。炎天下、幼児も老人も慰霊塔の前に足を運び、静かに合掌し鎮魂と平和を祈るのです。先だっての慰霊祭では、小・中学生が自分たちで育てたオオゴマダラを三百匹大空に放ち、平和への切実な願いを託しました。
沖縄には、なかなか解決されない問題が多く、気分も沈みがちですが、忍耐強く前向きの気持ちを失わない県民性は、明るく賑やかな事を創り出すのが得意です。その一つ、お祭り好きなのです。この時期、各地で夏祭り、エイサー祭り、各種イベントが目白押し。国の重要無形民俗文化財に指定されている宮古島の「多良間の八月踊り」は、三日間にわたり多良間独特の芸能が披露され、沖縄を代表する豊年祭だといわれています。石垣島の「四(し)ケ(か)村(むら)プーリィ(豊年祭)」もこれと共通するところが多く、私は幼い頃から身近に接し、感動や活力を全身で受けていたものです。これも国選択無形民族文化財の一つ。そのほか、芸能祭り、保育園単位のかわいらしいお祭りなども行われ、いつでもどこかで祭囃子が鳴り響いているありさまです。
とり分け、「エイサー」は沖縄の夏の風物詩と言っても過言ではないでしょう。本来は旧盆に欠かせない宗教的行事として行われたようですが、現在に至っては、格式ある伝統に近代的要素を組み入れ、青少年が大太鼓やパーランクーを打ち鳴らしつつ、勇壮かつ風流を醸して踊ります。その様子は老若男女を虜にしてしまいます。パワー溢れる若者たちには、新風の中にもしっかりと伝統を受け継ぎ、精いっぱい自己を表現してもらいたい。そしてその瑞々しいエネルギーが沖縄の幸せにつながるよう願ってやみません。
(二〇〇九年六月、NHKラジオ第一 九州・沖縄「季節のエッセー」として放送されたものです)
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん