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2012年09月05日

がじまん第245号

高齢者の同期会
大宜見義夫

 那覇高校十一期生の同期会が箱根で催された。東京在住同期生主催の箱根旅行は、幹事らの熱心な下見・交渉のおかげで至極快適な旅となった。何しろ七十二、三歳の高齢者ばかりの旅だから体調不良の人もいたはずだが、出会うとみな十八歳の心情にタイムスリップして元気溌剌、高齢者ならではの旅の展開となった。
 道中の景勝地で一人が行方不明になるハプニングが起きた。幹事やバスガイドらが血眼に探し回り事なきを得たが、不明者発見の報に、バスの中で安堵の喝采が起こった。時間ロスで美術館行きが中止となったものの誰一人咎める者もなく喝采を送るやさしさに、バスガイド嬢は感動し「沖縄の人ってやさしいんですね」と目を潤ませた。年とると人はみなやさしくなることを改めて実感した。
 二日目の最後の宴会の後、二次会場へ向かった。そこは、ものまね芸人の独演ショーが行われるカラオケ兼用の演芸場であった。アルコール類が振る舞われる中、ショーが始まった。四十歳前後の若い芸人が、往年のスターの衣装をまとい、ジョークを交えながら登場した。点滅するスポットライトを浴びながら彼はけたたましい大音響の中、歌やものまねを次々と披露した。二十数年前のなつかしの歌や歌手だといわれても、耳をつんざくような歌ばかりで我々の世代にはピンとこない。
 ステージのまん前に陣取った幹事のAが大音響の中、コクリコクリと居眠りを始めた。一曲歌い終えた芸人はAに近づき、「おとうさん、眠いの、後ろにソファーがあるよ。真ん前で寝られるとやりにくいんだよなー」と口を尖らせた。Aは「わかった。わかった」と眠い目をこすりながら座り直した。世話人代表の立場上眠いからといって「あいよ、わかった」とすんなり引き下がるわけにはいかない。大音響と共に次の歌が始まると、Aは再び船を漕ぎ始めた。主催者としての気苦労とアルコールがもたらす睡魔にはあらがえないのだ。一曲終わるごとに拍手で目覚め手を叩くが、芸人も負けてはいない。ジョークと本音をない交ぜにして「皆さん、私だけがスポットライト浴びてまわりは暗くて見えないとお思いでしょうが、私にはよ~く見えます。真ん前のおとうさん、また寝ていましたね」と言って場内の笑いを誘った。
 こんなやりとりを繰り返すうちにフィナーレを迎えた。フィナーレの拍手で目覚めたAが体を揺すりながら遅ればせの拍手を送った。芸人は、すかさず「おとうさん、寝るか起きるかどっちかにして!」と、捨てゼリフを放った。場内爆笑の中、隣のBがほろ酔い気分で立ち上がり「そうだ、そうだ」と相づちを打つと、「あなたも寝ていたでしょう!」と一喝された。
 ショーが終わり、カラオケの時間となり、四、五十年前の懐かしの歌が始まるとAは我に返ったように元気になり持ち歌をうたい始めた。高齢者の同期会の魅力は同じ時代感覚を有するものどうしの一体感にある。この共有感覚は若い世代には通じにくい。
 ものまね芸人も、時代感覚のズレが、あのすれ違いコントを招いていたとはご存知あるまい。


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