2013年04月10日
がじまん第260号
青磁の小皿
大雨の三月末日、県立埋蔵文化財センターの、首里城京(きょう)の内(うち)跡出土品展に足を運んだ。十年前には歴史や考古学の知識もなく、「京の内」が何かすら分からなかった。だが、ちょこちょこと企画展に出かけたりするうち、京の内は首里城にある聖域の一つであり、祭祀が行われた場所だと分かるようになった。
深い知識はなくとも、埋蔵品は面白い。
小さな企画展示室の扉を開けたとたんに、わぁっ! そして、誰もいなくてよかったと、ホッ。正面のショーケースに並ぶ青磁の量と輝きに、思わず声がでたのだ。四面の壁と部屋の中央にあるショーケースには、それぞれ「青花(せいか)」「コンテナとしての容器」「青磁」「アジア諸国の品々」そして「鎖帷子(かたびら)や兜などの金工品」といった出土品が展示されていたが、青磁が圧倒的に多いのである。それもそのはず平成六から九年度までの四年間に、京の内の倉庫跡から出土した陶磁器は、五一八点のうち約六割が青磁で、「洪水のようにやってきた大量の青磁」と題されていた。
金工品が腐食するのはやむを得ないとして、陶磁器は状態のいいものが多いことに驚いた。さすが京の内、世界的にもレアな埋蔵品が出てくるそうだ。まったく無傷に見え、何世紀も埋まっていたとは思えないものすらある。
青磁コーナーで数多く陳列されているのは、「酒会壺(しゅかいこ)」(中国では酒海壺)というものだった。ずんぐりむっくりした壺で口が広く、酒を入れる蓋付の容器で、柄杓(ひしゃく)で酌んで器に移すとある。これだけ大量に出てくるのは、接待などの酒宴が頻繁に行われていたのではないかとの解説だ。
いくつもの酒会壺を通り過ぎたところに、直径が十センチほどの小皿が何枚かあった。どの皿にも見込(みこみ)(内底)に、小さな二匹の魚が少し盛り上がって形作られている。型で押したり盛ったりと様々な手法があり、金魚のような愛らしい形もあると書かれている。
突如、思った。これは杯ではないだろうかと。解説では「皿」であり、酒を入れるとは書かれていない。が、皿といってもやや深く、液体を入れることは可能だ。
酒会壺から青磁の杯に酒を酌む。揺らめく青い水面(みなも)の向こうに、一対の魚が戯れている。それを愛で、ゆっくりと杯を口に運ぶ。なんと優雅で贅沢な趣向だろうか…。雨で来場者が少ない静かな空間は、より想像力をかきたててくれた。
埋蔵品は面白い。だから仕事に追われる日々から逃れるように、たまにふらっとここへ来るのだ。
南ふう
大雨の三月末日、県立埋蔵文化財センターの、首里城京(きょう)の内(うち)跡出土品展に足を運んだ。十年前には歴史や考古学の知識もなく、「京の内」が何かすら分からなかった。だが、ちょこちょこと企画展に出かけたりするうち、京の内は首里城にある聖域の一つであり、祭祀が行われた場所だと分かるようになった。
深い知識はなくとも、埋蔵品は面白い。
小さな企画展示室の扉を開けたとたんに、わぁっ! そして、誰もいなくてよかったと、ホッ。正面のショーケースに並ぶ青磁の量と輝きに、思わず声がでたのだ。四面の壁と部屋の中央にあるショーケースには、それぞれ「青花(せいか)」「コンテナとしての容器」「青磁」「アジア諸国の品々」そして「鎖帷子(かたびら)や兜などの金工品」といった出土品が展示されていたが、青磁が圧倒的に多いのである。それもそのはず平成六から九年度までの四年間に、京の内の倉庫跡から出土した陶磁器は、五一八点のうち約六割が青磁で、「洪水のようにやってきた大量の青磁」と題されていた。
金工品が腐食するのはやむを得ないとして、陶磁器は状態のいいものが多いことに驚いた。さすが京の内、世界的にもレアな埋蔵品が出てくるそうだ。まったく無傷に見え、何世紀も埋まっていたとは思えないものすらある。
青磁コーナーで数多く陳列されているのは、「酒会壺(しゅかいこ)」(中国では酒海壺)というものだった。ずんぐりむっくりした壺で口が広く、酒を入れる蓋付の容器で、柄杓(ひしゃく)で酌んで器に移すとある。これだけ大量に出てくるのは、接待などの酒宴が頻繁に行われていたのではないかとの解説だ。
いくつもの酒会壺を通り過ぎたところに、直径が十センチほどの小皿が何枚かあった。どの皿にも見込(みこみ)(内底)に、小さな二匹の魚が少し盛り上がって形作られている。型で押したり盛ったりと様々な手法があり、金魚のような愛らしい形もあると書かれている。
突如、思った。これは杯ではないだろうかと。解説では「皿」であり、酒を入れるとは書かれていない。が、皿といってもやや深く、液体を入れることは可能だ。
酒会壺から青磁の杯に酒を酌む。揺らめく青い水面(みなも)の向こうに、一対の魚が戯れている。それを愛で、ゆっくりと杯を口に運ぶ。なんと優雅で贅沢な趣向だろうか…。雨で来場者が少ない静かな空間は、より想像力をかきたててくれた。
埋蔵品は面白い。だから仕事に追われる日々から逃れるように、たまにふらっとここへ来るのだ。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん