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2013年11月05日

がじまん第273号

キャロットロードの昼下り
ローゼル川田
  
 沖縄本島の東海岸線に沿って平行に点在する島々がある。知念半島の東側の海上に位置する久高島から始まり、その北側方向に津堅島がある。中城湾を回りこむように勝連半島辺りまで行くと、民謡歌手の神谷幸一や神谷千尋の歌が潮風に混じって聴こえてきたので、津堅島の船に乗った。
 数年前と景色が殆ど変わらない。昼下がりの集落の路地を歩き回ってみると数軒のマチヤグヮーがあり、店頭にはやはり人気が見えない。道端のコバテイシの木陰で一休みをして辺りを見ると食堂が目に入ったので、甘い津堅ニンジンの山盛りを食べたいと思い、店内を覗いてみると人の気配がなく、声を出しても、静まり返ったままである。
 外へ出てみるともう一本のコバテイシの木陰の下では、数人の男たちが昼下がりの井戸端会議の様子。声をかけ、訪ねてみると「店にはだれも居ない。皆、ニンジン畑に出ている」と素っ気無い返事が返ってきた。生暖かい風が吹いて、時間が止まった。営業中の食堂に店主が居ないとは、どう解釈すればよいのか等と、都会に慣れきった頭をリセットしてみても散らかったままで繋がらない。つい高嶺映画の「パラダイスビュー」や「ウンタマギルー」の映像が脳裏に浮かび上がってきた。「マチブイ」は高嶺映画のキーワードでもある。「混乱」「混線」「もつれる」いろんな言葉がコバテイシの周りを飛び始めた。営業中の食堂に店主が不在にも係わらず、客であるボクの困った様子に平然として、再び井戸端会議である。お腹が空いて、ボクのステレオタイプの常識が可笑しくなってしまったのか。
 腹が減ったのを見透かされたのか、コバテイシの木陰から一人の男がゆっくり立ち上がり、近寄ってきた。少しばかりボクに目配りした後、先に歩き始めたので無意識に付いて行った。ブロック塀の角を二つ程曲がると、一軒の民家に入り「おばさんご飯あるね?」とその男が聞くと奥の方から「あるよ」との返事が聞こえてきた。路上で会った見ず知らずの人が見ず知らずの人(ボク)を連れて、いきなり「ご飯あるね?」ときたので、つい深呼吸をして津堅の島に来たのだと強く感じた。
 ご飯とニンジン、味噌汁の味が眩い路地と絡まり、静かな風が路地を抜けていった。普段は顔見知りだけが往来する島の路地は集落の廊下のようだと感じた。飯島耕一の詩の中にある昔の池間島の路上のワンシーンを思い出し、知り合いだけが歩く路地に見知らぬ人が侵入すると人の意識も風景も一変してしまうのだと感じながら、船に乗った。



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