2014年06月20日
がじまん第288号
浦島太郎
大学進学により沖縄を離れ、四〇有余年を経て戻ってきた。北海道から沖縄へ。その間、沖縄は少しも流れを止めず変動してきたようだ。
高校までは、家と学校という狭小な活動範囲だったからだろうか。断片的なニュースは見聞きしていたが、その大きな流れに少しも気付かなかった。琉球政府発行のパスポートを持って出たが、夏休みの帰省では、出入国管理下に置かれることなく「入国」できた。昭和四七年だ。
今、ここに来て驚く。身近に聞いていた言葉を「シマクトゥバ」といい、絶滅危惧種の保護に当っているようだ。本島の地図はあちこち変化している。埋め立てにより街ができ、ビーチができ、橋ができている。那覇と糸満は、こんなに近かっただろうか?
街が、道路がきれいになっている。高層ビルが建ち並び、大型商店施設、観光地が整備されている。美しい劇場や博物館に目を瞠る。首里城もピカピカだ。
すべてが破壊され尽くし、他府県のような奈良・平安時代から保全されてきた城や寺社に匹敵するようなものがない沖縄で、新しく造られた歴史的建造物は、なぜか浮いて見える。「新しい」文化遺産を享受する自分の側の問題だろうか。四〇年以上離れていた故郷に、無意識に何かを期待していた自分に気づく。そのギャップに添えない違和感が落ちつかなくさせていた。まさに浦島太郎だ。
しかし、それほどの年月が経ったのだ。変化して当然ではないかと思えてきた。小さな赤ちゃんだった甥や姪が、今や立派なおじさん、おばさんになっている。
遅ればせながら、故郷に不義理であったことを埋めるように、再就職した。少しでも、何か自分にできることはないだろうか。
身を置いた職場の人々は、親切で文化的だ。ごく身近に歴史を支えてきた人々が、何気なく存在する。偉ぶることなく話しかけてくる。その著書や業績の中にキラッとしたものを見てハッとする。ああ、そうだ、知らないことが多すぎる。ピカピカした物質的な変化に気を奪われ、キラリとした本質を見ることを忘れそうだった。
なにも職場に限ったことではなく、新暦と旧暦の使い分けをしているご近所の人々にもそのカギをみいだせるかもしれない。長い空白を埋めるように、これから学んでいかなくてはいけないと思う。故郷を知ることから始めよう。そうすることで、新と旧の調和を成し遂げた沖縄の本質が見えてくるのではないだろうか。
浦島太郎は、自分が過去の者だと気づいたとき、どう行動したのだろうかと、ふと思った。
恩田和世
大学進学により沖縄を離れ、四〇有余年を経て戻ってきた。北海道から沖縄へ。その間、沖縄は少しも流れを止めず変動してきたようだ。
高校までは、家と学校という狭小な活動範囲だったからだろうか。断片的なニュースは見聞きしていたが、その大きな流れに少しも気付かなかった。琉球政府発行のパスポートを持って出たが、夏休みの帰省では、出入国管理下に置かれることなく「入国」できた。昭和四七年だ。
今、ここに来て驚く。身近に聞いていた言葉を「シマクトゥバ」といい、絶滅危惧種の保護に当っているようだ。本島の地図はあちこち変化している。埋め立てにより街ができ、ビーチができ、橋ができている。那覇と糸満は、こんなに近かっただろうか?
街が、道路がきれいになっている。高層ビルが建ち並び、大型商店施設、観光地が整備されている。美しい劇場や博物館に目を瞠る。首里城もピカピカだ。
すべてが破壊され尽くし、他府県のような奈良・平安時代から保全されてきた城や寺社に匹敵するようなものがない沖縄で、新しく造られた歴史的建造物は、なぜか浮いて見える。「新しい」文化遺産を享受する自分の側の問題だろうか。四〇年以上離れていた故郷に、無意識に何かを期待していた自分に気づく。そのギャップに添えない違和感が落ちつかなくさせていた。まさに浦島太郎だ。
しかし、それほどの年月が経ったのだ。変化して当然ではないかと思えてきた。小さな赤ちゃんだった甥や姪が、今や立派なおじさん、おばさんになっている。
遅ればせながら、故郷に不義理であったことを埋めるように、再就職した。少しでも、何か自分にできることはないだろうか。
身を置いた職場の人々は、親切で文化的だ。ごく身近に歴史を支えてきた人々が、何気なく存在する。偉ぶることなく話しかけてくる。その著書や業績の中にキラッとしたものを見てハッとする。ああ、そうだ、知らないことが多すぎる。ピカピカした物質的な変化に気を奪われ、キラリとした本質を見ることを忘れそうだった。
なにも職場に限ったことではなく、新暦と旧暦の使い分けをしているご近所の人々にもそのカギをみいだせるかもしれない。長い空白を埋めるように、これから学んでいかなくてはいけないと思う。故郷を知ることから始めよう。そうすることで、新と旧の調和を成し遂げた沖縄の本質が見えてくるのではないだろうか。
浦島太郎は、自分が過去の者だと気づいたとき、どう行動したのだろうかと、ふと思った。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん