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2014年08月20日

がじまん第292号

感動をありがとう!
金城弘子 
 
 二〇〇九年六月二十五日、マイケル・ジャクソンが、突然この世を去った。二週間後に自身のコンサートをロンドンで開催する矢先のことだった。私を含め、彼のファンのみならず、世界中の多くの人が深い悲しみに沈んだ。
 私がマイケルに魅せられたのは、一九六九年、彼が兄弟と一緒にジャクソン5(ファイブ)としてデビューした頃だった。アフロヘアーの少年のピュアで弾けるような歌声は、完成度が高く、心を鷲掴みにされた。さらに、一九八七年からソロ活動を始めた彼は、一段と研ぎ澄まされた感性と、卓越した歌唱力で、自作の曲を次々と世に送り出す。種々の賞を総なめにして「キング・オブ・ポップ」と称されるようになった。マイケルの出現により、世界の音楽界の流れが変わり、ひいては黒人の地位の向上に繋がったとさえ言われている。
 一九九二年、「マイケルのライブを見る」という私の長年の夢が実現した。福岡ドームで見たマイケルは豆粒ほどであったが、私にはその姿がはっきりと見えた。天賦の声量に加え、切れのある体の様々な動き、スピードと躍動感溢れるダンスパフォーマンス、マイケルと一体になったバックバンドのパワー。ステージ上のマイケルのエネルギーとスピリットが、自分の体に伝わってくるような感動を覚えた。これまでにもいろいろなアーティストのライブを見てきたが、このような感覚はまったく初めての体験だった。
 二〇〇〇年代、マイケルは私生活でのスキャンダルが取りざたされ、長く公演活動を中止していた。満を持して開催される予定だった、ロンドン公演。世界中のファンが待ち望んでいた。私も、チケットを入手するため手を尽くしたが、叶わなかった。
 二〇〇九年十月、幻となったロンドン公演「ディス・イズ・イット」のリハーサル風景が、映画となって公開された。二ヶ月に亘る特訓中、マイケルは一曲一曲、楽器の演奏、ダンサーの動き、舞台装置のすべてに緻密な指示を出し、曲を仕上げていく。マイケルの比類なき才能と見事な演出に、大きな賞賛を送りたい。
 最も感動的なシーンは「アース・ソング」の曲の映像で、アマゾンの平和な森の中で、少女が自然と戯れ、微睡(まどろ)んでいる。そこへ突然、キャタピラーが現れ、森が破壊されていく。逃げ惑う少女や動物たち。マイケルは怒りを込めて叫び、歌う。彼は、環境保全や平和の希求者でもあった。
 二〇一〇年、「ディス・イズ・イット」がDVD化された。マイケルの死去以来、私の目下の楽しみは、このDVDを鑑賞することである。マイケルと一緒に歌い、興が乗るとダンスを真似る(似ても似つかないが)。
 今は、この不世出の天才アーティストと同時代に生きていたことを、感謝したい。


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