2014年09月20日
がじまん第294号
青春のノスタルジア
七月の日曜に那覇へ出ると国際通りの車道がガラ空きであった。歩行者天国だとの事。だが車道へ下りる人影はまばら。猛暑の時刻に車道に下りるのは酔狂人の類らしい。
そういう場に出くわすと僕はためらわずに酔狂人となる。アスファルトの照り返しも何のその、真ン中の線上を踏んで奇蹟の一マイルの独歩となった。普段はあまり映らない街路樹のヤシが彼方までの並木となる。
道路の勾配も興味深い。ほんむら堂辺りから上り坂となり沖縄海邦銀行が頂点。そこから急に下り坂となり、むつみ橋交差点までグッと見下ろせる。幅員も広げられたように見える。二車線の窮屈な車道が滑走路を思わせるたくましい景観に変じる。
二〇分くらいの夢舞台を遊歩してから平和通りへと折れる。50年前の平和通りを回想する。
土曜日の午後には先ずは平和通りの人波へ混じった。〝群集の中の孤独〟に酔った。
入口の純喫茶「門」へはクラシックの音色を耳朶に受けて悦に入った。若いウェイトレスに「ミレーの落穂ひろいを掛けてください」とリクエストした。かなりの時間レコードを探していた彼女が、「すみません。まだ入荷してません」と詫びるのを心を痛めながらもその声音と姿態に青春の胸をときめかせた。
土曜の午後の平和通りには週に一度〝華〟がさいた。オフィスガールたちが午前の勤務を終えて買い物・散策にと舞い降りてきたからであった。デートを申し込む身分ではない貧乏学生は彼女たちの笑い声やタイトスカートの下でもつれる美脚にささやかな週末のしあわせを味わうのみであった。
回想を解いて通りへ入るとまだ「門」の看板は在った。だが、閉まっている。歴史を閉じてしまったのだろうか。それでも後日確かめに行くと開いていた。
店内の配置は変わっていたが純喫茶の香りは高級であった。ママに聞くと創業は一九五六年だという。僕は62年から64年までの通い客だったと告げながらコーヒー一杯をたしなんだ。ママは先代の娘で、またその娘(孫)たち三名で継いでいるとのこと。これからは平日の客として豊見城から通いたい。
平和通りは目取真俊の小説「平和通りと名づけられた街を歩いて」の中ですさまじい時代の舞台ともなった。平和通りから桜坂を上っての右手の小便横丁辺りは、玉木一兵の小説「お墓の喫茶店」でも知られたが開発の波で景観が一変した。
僕は桜坂の中途に在る〝陽のあたる坂道〟のスナックに入りまた回想に浸った。
宮里尚安
七月の日曜に那覇へ出ると国際通りの車道がガラ空きであった。歩行者天国だとの事。だが車道へ下りる人影はまばら。猛暑の時刻に車道に下りるのは酔狂人の類らしい。
そういう場に出くわすと僕はためらわずに酔狂人となる。アスファルトの照り返しも何のその、真ン中の線上を踏んで奇蹟の一マイルの独歩となった。普段はあまり映らない街路樹のヤシが彼方までの並木となる。
道路の勾配も興味深い。ほんむら堂辺りから上り坂となり沖縄海邦銀行が頂点。そこから急に下り坂となり、むつみ橋交差点までグッと見下ろせる。幅員も広げられたように見える。二車線の窮屈な車道が滑走路を思わせるたくましい景観に変じる。
二〇分くらいの夢舞台を遊歩してから平和通りへと折れる。50年前の平和通りを回想する。
土曜日の午後には先ずは平和通りの人波へ混じった。〝群集の中の孤独〟に酔った。
入口の純喫茶「門」へはクラシックの音色を耳朶に受けて悦に入った。若いウェイトレスに「ミレーの落穂ひろいを掛けてください」とリクエストした。かなりの時間レコードを探していた彼女が、「すみません。まだ入荷してません」と詫びるのを心を痛めながらもその声音と姿態に青春の胸をときめかせた。
土曜の午後の平和通りには週に一度〝華〟がさいた。オフィスガールたちが午前の勤務を終えて買い物・散策にと舞い降りてきたからであった。デートを申し込む身分ではない貧乏学生は彼女たちの笑い声やタイトスカートの下でもつれる美脚にささやかな週末のしあわせを味わうのみであった。
回想を解いて通りへ入るとまだ「門」の看板は在った。だが、閉まっている。歴史を閉じてしまったのだろうか。それでも後日確かめに行くと開いていた。
店内の配置は変わっていたが純喫茶の香りは高級であった。ママに聞くと創業は一九五六年だという。僕は62年から64年までの通い客だったと告げながらコーヒー一杯をたしなんだ。ママは先代の娘で、またその娘(孫)たち三名で継いでいるとのこと。これからは平日の客として豊見城から通いたい。
平和通りは目取真俊の小説「平和通りと名づけられた街を歩いて」の中ですさまじい時代の舞台ともなった。平和通りから桜坂を上っての右手の小便横丁辺りは、玉木一兵の小説「お墓の喫茶店」でも知られたが開発の波で景観が一変した。
僕は桜坂の中途に在る〝陽のあたる坂道〟のスナックに入りまた回想に浸った。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん