沖縄エッセイスト・クラブ

嗚呼、沖縄三越

　新春を寿ぐように今年も国内の百貨店では各種の福袋を求めて長蛇の列、とテレビも新聞も伝えている。地方紙でも「福袋に四千人が列」の見出しで、40歳の男性が（この頃は男女問わずに人気の福袋）前日から並んでいたとの記事があった。そういえば、私が福袋をはじめて買ったのが沖縄三越だったな、と妙な感慨に耽る。福袋という言葉の響きと百貨店（デパート）の初売りという組み合わせが新年の華やぎを醸し、たとえ買わなくとも楽しいニュースだ。デパートの新春の風物詩、そのデパートが、今年は一つきりになってしまった。
　昨年九月、沖縄三越が人々に惜しまれつつ閉店した。15年前には沖縄山形屋が幕を閉じ、国際通りが俄かにさびしくなった。戦前戦後を通じて親しまれてきた老舗が消えた。

　　山形屋消えて久しも去年(こぞ)にまた沖縄三越暖簾を下ろす

　沖縄三越の前身「大越」の創業は私が高校生の頃。国際通りの真ん中にあって、地の利という点では「山形屋」や「リウボウ」より一番よかったのではないか。待ち合わせ場所にもなったし、地方から来られる人には都会の象徴だった、と思い出を語られる。那覇市の観光スポットでもあったそうだ。
　私の友人は六階のレストランで結婚式を挙げた。教会や神社ではなく、当時としては非常に革新的な人前結婚式というもので、媒酌人も無く、並み居る列席者の前で「誓いの言葉」を述べるのである。レストランだから殆どバリアフリー、受付もなかったので、結婚式に出席した人とデパートの客との区別がつかなかった。買物中の人たちも笑顔で話しかけてくれ、フロアいっぱいに幸せの花が満開という風情だった。百名から百五十名だったろうか。後にも先にもないデパートのレストランでの結婚式は四〇年前のことである。あの時の美しい花嫁は六名の可愛い孫たちに囲まれ幸せな日々を送っている。
　９月21日、沖縄三越が閉店を告げる日の午後五時ごろ店内に出かけてみた。予想はしていたが大勢の客で賑わっていた。思い出づくりのための買物と閉店セレモニーに詰めかけたのだろうか。ふと見ると名残惜しそうに佇んでいるシニアの女性。高級感と庶民性がミックスされ、特にデパ地下は女性たちの暮らしを支える素敵な空間で、最終日もすごい人だかり。カメラのフラッシュが焚かれる。この日、千八百人が来店したという。
新春の福袋は、もう変えない。

　　おろされし大戸の影にわが夢の一つ潜めて沖縄三越