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2015年06月20日

がじまん第312号

匂いさまざま
吉田朝啓

 生々発展の季節を迎えて、動物も植物も様々な匂いを発散させて自己主張を競うようになってきた。人間も牛・馬・犬・猫もそれぞれに体臭のような匂いを発達させて、相手に自分の存在を知らしめて警戒させたり、魅惑したり、涙ぐましい努力をする。
 その匂いを捉えるために鼻を使い、昆虫などは、触角のようなアンテナを張って発信元を探ろうとする。匂いの本体は、種独特の匂いを表す化学物質であるが、発信源から遠ざかるほど濃度が薄くなるという特徴があり、その濃度勾配を確かめながら発信源に近づいていくという、コンピューター以上の素晴らしい能力を発揮する。例えば、毒蛇ハブの場合。繁殖期の今、メスの首辺りから発する「得も言われぬ匂い」に惹かれて、オスは二又に分かれた舌を出し入れして右に左に「蛇行」しながら近づく。
 視覚はほとんどゼロだから、舌による嗅覚に頼る以外に恋の手立てはない。横に分かれた舌で、空中の匂い物質の左右差を、口の天井にある嗅覚装置に届けるのである。探り当てた相手の首に己の首を添えることができたら、後は、下半身が自然に接合できるようになっている。
 昆虫はもっと素晴らしい嗅覚を持っている。空中に漂う匂い物質をアンテナで拾いながら次第に花に近づき、蜜にありつく。ミツバチなんか、欧州大陸の西から東に数百キロを飛んで後、また自分の巣箱に戻っていくという。
 植物の場合は、繁殖相手を呼び寄せるというよりも、媒介してくれる昆虫やハチドリなどの動物を呼び寄せるための香り物質を用意する。お花畑に群がる蝶蝶や、梅や桜の枝から枝へ飛び回り蜜を吸う動物たちの姿は、正にこの天然の仕掛けのオンパレードである。
 では、人間の場合はどうか。多くの人は、自分の匂いには無頓着であるが、女性の場合は、自身の色香を強調するためにお化粧し、香水を用いる。最近では、男性も香水を使って身だしなみをするというご時世である。さてしかし、最近は、お化粧のためというより、病弱者や高齢者のアメニティを慮る意味から、体臭をどうするか、にまで配慮するようになっている。汗や排泄物由来の匂いや、飲食物由来の匂い、など、本人の不始末によるものではない匂いを一緒に考えること、そういう時代になっている。小生も、後期高齢者となり、家族から加齢臭を指摘されるようになって、ますます匂いには敏感になっている今日この頃である。


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