2015年09月05日
がじまん第317号
昔話 その1
龍と百足
世の中は平和であった。村(ムラ)の人たちは、毎日、毎日、のんびりと暮らしていた。そんなある日、ムラの海岸近くの草叢に、一匹の龍(竜)が降りてきた。龍は降りてくると、間もなく、鼾をかいて昼寝を始めた。
ちょうどその時、一匹の百足(むかで)が草叢から這い出してきて、昼寝のための穴を探していた。豪華な穴が、すぐ見つかった。百足は安全と居心地を確認するためか、穴の中をあちこち歩き回った。その百足には、知る由もなかったが、実は、その穴は、昼寝をしていた龍の耳穴であった。
ということで、百足が動く度に、龍に激痛が走った。龍は頭を振って、耳の中のモノを出そうとした。しかし、龍が頭を振れば振るほど、百足は、どんどん中へ入っていった。龍の痛みはひどくなるばかりであった。しまいには、頭を地面にたたきつけながら、「ウォー、ウォー」とうなり、のたうちまわった。
その様子を見ていた村人たちは、みんなで相談をして、村オサを代表に、龍に会ってもらった。
オサは、龍に近づき、「龍さん、ちょっと、その耳を見せてごらん」といって、龍の耳を覗いた。耳の中では、一匹のムカデが、外にひき出されないようにと、あの百の足(たくさんの足)で、必死にしがみついているところであった。
オサは、龍と交渉をはじめた。
「龍さん、私が耳の中のモノを、外に出してやったら、あなたは、二度とこの村や村の近郊には降りてこないと、約束ができますか」という交渉であった。龍にとっては、イヤもオウもなかった。何しろ、痛くて痛くて、とても我慢ができなかったのである。交渉は、すぐに成立した。
オサは、村の人たちに、できるだけ早く、「鶏の肉」を、火に焙って持ってくるようにと言いつけた。そして、村人たちが持ってきた焼肉を、龍の耳元に、そっと置いた。あたり一面に、焼肉のにおいが立ちこめた。耳の中の百足は、その匂いに釣られて、匂いのする方向へと歩きだし、いつの間にか、耳の外に出ていた。そして、外に出た途端、オサに捕まった。以後、百足を恐れた龍は、その村や近郊に、降りてくることはなくなったという。
ウミンチュウであった祖父から、八十年以上も前に聞いた、懐かしい昔話である。
龍と百足
島元巖
世の中は平和であった。村(ムラ)の人たちは、毎日、毎日、のんびりと暮らしていた。そんなある日、ムラの海岸近くの草叢に、一匹の龍(竜)が降りてきた。龍は降りてくると、間もなく、鼾をかいて昼寝を始めた。
ちょうどその時、一匹の百足(むかで)が草叢から這い出してきて、昼寝のための穴を探していた。豪華な穴が、すぐ見つかった。百足は安全と居心地を確認するためか、穴の中をあちこち歩き回った。その百足には、知る由もなかったが、実は、その穴は、昼寝をしていた龍の耳穴であった。
ということで、百足が動く度に、龍に激痛が走った。龍は頭を振って、耳の中のモノを出そうとした。しかし、龍が頭を振れば振るほど、百足は、どんどん中へ入っていった。龍の痛みはひどくなるばかりであった。しまいには、頭を地面にたたきつけながら、「ウォー、ウォー」とうなり、のたうちまわった。
その様子を見ていた村人たちは、みんなで相談をして、村オサを代表に、龍に会ってもらった。
オサは、龍に近づき、「龍さん、ちょっと、その耳を見せてごらん」といって、龍の耳を覗いた。耳の中では、一匹のムカデが、外にひき出されないようにと、あの百の足(たくさんの足)で、必死にしがみついているところであった。
オサは、龍と交渉をはじめた。
「龍さん、私が耳の中のモノを、外に出してやったら、あなたは、二度とこの村や村の近郊には降りてこないと、約束ができますか」という交渉であった。龍にとっては、イヤもオウもなかった。何しろ、痛くて痛くて、とても我慢ができなかったのである。交渉は、すぐに成立した。
オサは、村の人たちに、できるだけ早く、「鶏の肉」を、火に焙って持ってくるようにと言いつけた。そして、村人たちが持ってきた焼肉を、龍の耳元に、そっと置いた。あたり一面に、焼肉のにおいが立ちこめた。耳の中の百足は、その匂いに釣られて、匂いのする方向へと歩きだし、いつの間にか、耳の外に出ていた。そして、外に出た途端、オサに捕まった。以後、百足を恐れた龍は、その村や近郊に、降りてくることはなくなったという。
ウミンチュウであった祖父から、八十年以上も前に聞いた、懐かしい昔話である。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
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