2016年02月20日
がじまん第328号
だからよー
ウチナーンチュの会話でひんぱんに使われる言葉に、「だからよー」がある。「だから何なのよ」と怒ったヤマトンチュがいたそうだが、「郷に入っては郷に従え」である。「だからよー」は理由を説明する言葉ではない。ヤマトで使う「そうだね」に近く、共感、同意を示すが、同意しなくても、とりあえずその場をしのぐために使う場合もある。「だからよー」と言われたら、この話は打ち切り、それ以上は追及しないのがウチナーンチュの常識である。
私は、日常の小さな「できごと」がきっかけで、「だからよー」に強く惹かれるようになった。
昨年の暮れ、正確に言うと十二月十一日の朝、いつものように郵便受けから取り出した新聞に目を落とすと、一面の中央に眼鏡をかけた男の写真があり「野坂昭如さん死去」と大きな見出しがついている。テレビではすでに報じられていたので、驚きはなかったが、「派手に生きた男もとうとう逝ってしまったのか」と、熱いものがこみ上げてきた。新聞記事に目をやりながらエレベーターに乗ると、顔見知りの五十代の看護師さんが、先に乗っていた。エレベーターが動き出してから、あいさつをしてなかったことに気がつき、思わず「みんな死んでいくんだね」と言ってしまった。看護師さんは新聞の写真にチラッと眼をやりながら、「だからよー ハハハ」と返してきた。「ハハハ」と同時にエレベーターのドアが開き、看護師さんは急ぎ足で出て行った。長年、人の病や死と向き合ってきた女性が発した「だからよー」。調子は明るいが、深い思いが伝わってくるような一言であった。
それにしても、「みんな死んでいくんだね」という難しい問いかけに一言で応じ、かつ余韻まで残す「だからよー」はなんとスゴイ言葉だろうとつくづく思った。「そうですね」、「そうでんなあ」では何も伝わってこない。後から、あの場面にふさわしい言葉はなかったかと色々考えてみたが、「だからよー」に勝る言葉は思いつかなかった。
最近、自分でも「だからよー」を使うようにしている。
面倒な説明を省略できるので、無精者にとっては大変ありがたい。自分で使ってみると、さまざまな場面でとっさに使える便利な言葉であることがよくわかる。言葉の響きも柔らかく、場をなごます効果もあるようだ。
沖縄に雪(みぞれ)が降った翌々日、ゴミ袋を持ってエレベーターで下っていると、ドアが開いて、あの看護師さんが乗り込んできた。その時の会話を再現してみた。
看護師…「寒いですね」
私………「雪も降ったしね」
看護師…「だっからよー」
我那覇明
ウチナーンチュの会話でひんぱんに使われる言葉に、「だからよー」がある。「だから何なのよ」と怒ったヤマトンチュがいたそうだが、「郷に入っては郷に従え」である。「だからよー」は理由を説明する言葉ではない。ヤマトで使う「そうだね」に近く、共感、同意を示すが、同意しなくても、とりあえずその場をしのぐために使う場合もある。「だからよー」と言われたら、この話は打ち切り、それ以上は追及しないのがウチナーンチュの常識である。
私は、日常の小さな「できごと」がきっかけで、「だからよー」に強く惹かれるようになった。
昨年の暮れ、正確に言うと十二月十一日の朝、いつものように郵便受けから取り出した新聞に目を落とすと、一面の中央に眼鏡をかけた男の写真があり「野坂昭如さん死去」と大きな見出しがついている。テレビではすでに報じられていたので、驚きはなかったが、「派手に生きた男もとうとう逝ってしまったのか」と、熱いものがこみ上げてきた。新聞記事に目をやりながらエレベーターに乗ると、顔見知りの五十代の看護師さんが、先に乗っていた。エレベーターが動き出してから、あいさつをしてなかったことに気がつき、思わず「みんな死んでいくんだね」と言ってしまった。看護師さんは新聞の写真にチラッと眼をやりながら、「だからよー ハハハ」と返してきた。「ハハハ」と同時にエレベーターのドアが開き、看護師さんは急ぎ足で出て行った。長年、人の病や死と向き合ってきた女性が発した「だからよー」。調子は明るいが、深い思いが伝わってくるような一言であった。
それにしても、「みんな死んでいくんだね」という難しい問いかけに一言で応じ、かつ余韻まで残す「だからよー」はなんとスゴイ言葉だろうとつくづく思った。「そうですね」、「そうでんなあ」では何も伝わってこない。後から、あの場面にふさわしい言葉はなかったかと色々考えてみたが、「だからよー」に勝る言葉は思いつかなかった。
最近、自分でも「だからよー」を使うようにしている。
面倒な説明を省略できるので、無精者にとっては大変ありがたい。自分で使ってみると、さまざまな場面でとっさに使える便利な言葉であることがよくわかる。言葉の響きも柔らかく、場をなごます効果もあるようだ。
沖縄に雪(みぞれ)が降った翌々日、ゴミ袋を持ってエレベーターで下っていると、ドアが開いて、あの看護師さんが乗り込んできた。その時の会話を再現してみた。
看護師…「寒いですね」
私………「雪も降ったしね」
看護師…「だっからよー」
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん