2016年04月05日
がじまん第331号
高くついたハモンの教訓
馴染みの回転寿司屋がおもろまちにある。スポーツセンターの帰り道、二週間に一度は立ち寄り、二人分の折詰を買って帰るのが、我が家のささやかな贅沢になっている。玄関先で、「えい、えい、おう!」の掛け声で送り出されるときは、寿司の持ち帰りを要求する妻の暗号指令である。私も気合をいれて「えい、えい、おう!」と応える。
寿司が出来上がるまでの間、待合用の椅子に掛けてカウンターで寿司を食べる人たちを観察すると面白い。最近は中国、韓国の観光客が目立つようになった。不慣れのため、注文に手間取る人が多い。店長に外国人とのトラブルはあるのか訊いてみると、食べられない量の寿司を注文(つまり爆買い)して、余った分を返却されることがある。それらは廃棄するほかないので、店は損をするが悶着を避けて泣き寝入りすることになるとのこと。
スペインに旅行した時のことを思い出す。昼間の観光の疲れをいやすため、夜は静かに土地の名物料理を味わおうと、バスク料理に挑戦することになった。宿のフロントで訊くと、レストランは近くにあり、ハモンが有名だという。暗い街灯の中に目指す看板は、間もなくして見つかった。
入り口のドアを開けると、ウェイター三、四名がじーっとこちらを見つめて立っている。にこりともしない。スペインの高級レストランでは無愛想が流儀なのだろうか? 場違いの観がしたが、後の祭りである。恐るおそる「ハモン」を注文して、ワインを飲みながら配膳を待った。
やがて、大皿二つに盛られて来たのは、その朝、観光バスの待合所で頬ばった、特大ホットドッグに挟まれていたのと同じ生ハムである。ハモンとはつまり生ハムであることを初めて知った。ワインの肴として相性は抜群だが、なにしろ量が多すぎる。注文の訂正を求めようにも英語がぜんぜん通じないのか、ウェイターは相変わらずの無表情で取りつく島もない。
自棄になって皿上のハモンに挑戦したが、スライス二、三枚で無念のギブアップ。高い代金を支払って店を出た。注文を受けた時点で、なぜ店の誰もアドバイスをしてくれなかったのか?恨みの波紋はいつまでも消えない。
寿司屋は店が損をし、ハモン店は客が損をした。正反対の事象ではあるが、初めての客に対する店側の不作為が原因という点では共通している。店側に、外国人に対する優しい心遣いがあれば、どちらも防げるはずである。
最近は寿司を待つ間、戸惑っている外国人を見つけると、それとなくアドバイスをしてあげることがある。
金城光男
馴染みの回転寿司屋がおもろまちにある。スポーツセンターの帰り道、二週間に一度は立ち寄り、二人分の折詰を買って帰るのが、我が家のささやかな贅沢になっている。玄関先で、「えい、えい、おう!」の掛け声で送り出されるときは、寿司の持ち帰りを要求する妻の暗号指令である。私も気合をいれて「えい、えい、おう!」と応える。
寿司が出来上がるまでの間、待合用の椅子に掛けてカウンターで寿司を食べる人たちを観察すると面白い。最近は中国、韓国の観光客が目立つようになった。不慣れのため、注文に手間取る人が多い。店長に外国人とのトラブルはあるのか訊いてみると、食べられない量の寿司を注文(つまり爆買い)して、余った分を返却されることがある。それらは廃棄するほかないので、店は損をするが悶着を避けて泣き寝入りすることになるとのこと。
スペインに旅行した時のことを思い出す。昼間の観光の疲れをいやすため、夜は静かに土地の名物料理を味わおうと、バスク料理に挑戦することになった。宿のフロントで訊くと、レストランは近くにあり、ハモンが有名だという。暗い街灯の中に目指す看板は、間もなくして見つかった。
入り口のドアを開けると、ウェイター三、四名がじーっとこちらを見つめて立っている。にこりともしない。スペインの高級レストランでは無愛想が流儀なのだろうか? 場違いの観がしたが、後の祭りである。恐るおそる「ハモン」を注文して、ワインを飲みながら配膳を待った。
やがて、大皿二つに盛られて来たのは、その朝、観光バスの待合所で頬ばった、特大ホットドッグに挟まれていたのと同じ生ハムである。ハモンとはつまり生ハムであることを初めて知った。ワインの肴として相性は抜群だが、なにしろ量が多すぎる。注文の訂正を求めようにも英語がぜんぜん通じないのか、ウェイターは相変わらずの無表情で取りつく島もない。
自棄になって皿上のハモンに挑戦したが、スライス二、三枚で無念のギブアップ。高い代金を支払って店を出た。注文を受けた時点で、なぜ店の誰もアドバイスをしてくれなかったのか?恨みの波紋はいつまでも消えない。
寿司屋は店が損をし、ハモン店は客が損をした。正反対の事象ではあるが、初めての客に対する店側の不作為が原因という点では共通している。店側に、外国人に対する優しい心遣いがあれば、どちらも防げるはずである。
最近は寿司を待つ間、戸惑っている外国人を見つけると、それとなくアドバイスをしてあげることがある。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん