てぃーだブログ › 沖縄エッセイスト・クラブ › 会報がじまん › がじまん第339号

2016年08月05日

がじまん第339号

いとこにエール
末吉節子

 いとこ〝末吉康敏〟が県産業振興公社理事長に就任した。彼は四十人近い母方のいとこの一人。母が十人兄弟の長女だから私には年の離れたいとこが多い。忘年会や、法事、慶事などでのいとこたちとの語らいはエネルギッシュで楽しい。先日も母の法事でいとこたちが来てくれて、その中で康敏の理事長就任が話題になった。
「イオン琉球の社長になった時も大変な出世だと喜んだけど、その後、会長、また今度の公社理事長といい、それこそ凄い出世だね。いとこたちの誇りだよ。頑張って」
 いとこの中で一番年長の姉が口火を切ると、「おめでとう、頑張ってね」など、次々に称えている。私は、「超忙しい中、来てくれてありがとう。沖縄の将来のために力を尽くしてね。母も、トーシー、でかしたよ、ウマンチュのために頑張って、と言っているよ」と笑顔の母の遺影を指さした。
 康敏は十八歳の頃、母と同居の私の家で一緒に暮らしていた。一年という短い間だったが、母にとっては高齢出産の息子のようなものだったのかもしれない。トーシーと呼びとても可愛がっていた。応えてトーシーは受験勉強の傍ら家事も手伝ってくれていた。
 ある日彼が、母が百名の海から獲ってきたイソアワモチを台所の流し台で洗っている時、たまたま遊びに来ていた私の友人Bに「トーシー、何しているの?」と訊かれ、「ホーミーを洗っています」と答えた。Bは床の上に足を滑らせ倒れんばかりだった。
 気づいた私は二人の側に行き、「驚いた? 伊是名ではこれをホーミーって言うのよ。炊く前にぬるぬるを落とすのが大変で、いつもトーシーがやってくれるので大助かりです」と助け船を出した。
 一生懸命なトーシーはやっと成り行きに気付いたようで、
「すみません。節姉さんが言ったように伊是名では普通にそう言っていて、標準語では何というか分かりませんので、失礼しました」
 口元に笑みを浮かべながらも、作業の手は休めない。
 トーシーは六人兄弟の次男で十五歳まで伊是名で育ち、共働きの両親を助け弟妹たちの面倒を見てきた。彼が家事にも秀でているのを知ったとき伊是名での両親の教育の賜だと思い、おじさんおばさんへの敬意の念を新たにした。男性が家事もこなすというのは一種の才能だと思っている。トーシーが産業振興のトップに立ったことは共働きの多い沖縄の将来に光を灯してくれるものだと信じて止まない。
 母の法事で客に差し出したお膳の片隅には、島からの贈り物のイソアワモチが載っていて、トーシーもおいしく食していた。


タグ :末吉節子

同じカテゴリー(会報がじまん)の記事

Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00 │会報がじまん