てぃーだブログ › 沖縄エッセイスト・クラブ › 会報がじまん › がじまん第348号

2016年12月20日

がじまん第348号

「かきくけこ」と「さしすせそ」
稲田隆司

 「かきくけこ」とは、かは感動のか、きは興味のき、くは工夫のく、けは健康のけ、こは何でしょう、こは恋するこ。これは人が元気に生きるためのチェックポイントとして、大島清先生が提唱したもので、先生は「かきくけこ」で活き活きと生きましょうと全国を講演されている。
 先生は大脳生理学者で、愛知県犬山市の京都大学霊長類研究所に勤務中、時々岐阜の柳ヶ瀬の「ポエム」というスナックに顔を出された。私も当時、岐阜大学病院に勤めており、仕事帰りに「ポエム」でカラオケを唄い、先生を紹介された。先生の十八番は「別れても好きな人」で、必ず最後の歌詞を「別れても次の人ー」に変えてガハハと笑った。我々もわかりつつも毎回、そうだと笑い拍手をした。
 先生は日々ガンガンと仕事をし、仕事が終わると研究員たちと豪快に酒を飲んだ。そんな暮らしを長く続け、定年退官の時脳ドックを受けると脳にダメージがあった。これはまずいと、さすが大脳生理学者、あるルールを決めた。ウォーキングである。ウォーキングをしない日は酒は呑まないと。鎌倉に引退し、先生の暮らしは、毎日、山あいの自宅からリュックを背負い二時間かけて街の市場へ歩き、食材を買い、また二時間かけて家に戻り、ツマミをつくり酒を吞むという優雅なものとなった。血液を廻し、筋肉を鍛え、脳に快楽を与える。『歩くと何故いいか』という名著がある。足の裏には脳を刺激するツボがあり、歩くと脳も喜ぶのだという。「ゴリラクラブ」という集まりをつくり「かきくけこ」運動とウォーキングを勧めておられる。
 争いが多く陰気な医局にコリテいた私は、先生に会うたびに、陽気で大らかな人柄に励まされファンになった。
 沖縄でふと「かきくけこ」の反対がうつ病ではないかと思いついた。感動できず、興味も持てず、創意工夫もおっくうで、あっちこっちと身体の調子が悪く、恋どころではない、何のトキメキもなくなる。それをエッセイに書き週刊レキオに載ったものを先生にお送りしたら「あの時の君が立派な精神科医になって」と温かなお手紙を頂いた。立派ではないが、私のあの時代の支えのひとつに先生の明るさ、酒場のバカ騒ぎがあったかと思う。
 そんな話を若い友人たちに話していたら、これもまたガンガン働く電通の原国君が、「先生、キャバクラのさしすせそ」もありますよと言う。さすがですね、知らなかったです、ステキですね、センスがいいですね、そうなんですかー、これを会話に入れると客が喜ぶと彼女たちは教え込まれるようですと。どおりでキャバクラは気分がいい訳だと皆で笑った。
(H28・11・13 9:40 PM)



タグ :稲田隆司

同じカテゴリー(会報がじまん)の記事

Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00 │会報がじまん