2017年01月20日
がじまん第350号
漢字を正しく読む効果
私は教育学部の看護教員養成課程を出たため、看護教育が当たり前なのですが、就職したての頃は教育学部の看護教員養成は全国で2校の大学にしかありませんでした。そのため、多くの教員は臨床の看護師が都道府県教育委員会の試験を受け、特別免許状を取得してなった教員でした。元臨床看護師の授業は、それこそ臨場感溢れた生き生きとした授業で、学生たちも目を輝かせて聞いていました。
その教員たちが使う言葉のなかには、どう見ても今は違っていると思われるもの、あるいは私が学んだものとは違うものがしばしばありました。高等学校に勤務していましたので「高校」という字はよく使います。しかし、ワープロやパソコンで「こうこう」と打つと「口腔」が出てきます。ブラインドタッチでなかったころは、気をつけないと「美唄聖華口腔」になっていました。口腔、腹腔、胸腔は、コウコウ、フッコウ、キョウコウです。でも、あまりに現場に浸透しているため、辞書にも市民権を得ているものとして使用が許されているのが現状です。喘鳴をゼイメイと読んだり、粘稠度をネンチョウドと読んだり。先輩看護師たちに「それは違う」と言いづらく、自分の授業で正しく読んでもらうよう繰り返し注意しました。看護の授業の半分は国語の授業のようでした。
実習で看護計画を立てますが、「症状の増悪を防ぐ」というとき、「憎悪」という文字を書く学生がいました。その読みを問うと「ゾウオです」と悪びれもせず答えます。「では、これはなんと読みますか?」と「増悪」を見せると「ゾウオです」と答えました。「そうなんですね。これをゾウオと読んだので憎悪に変換されても気づかないのですね」と、憎悪と増悪の違いを説明しました。臨地実習指導では、そのような間違いをする学生にときどき出会います。そこで、学生たちに話します。
卒業生が就職してすぐ、医師の回診にたちあったときのこと。喘息発作で入院した子どものそばにいました。彼女は「薬の効果があらわれています。ゼンメイは少なくなり、痰のネンチュウドも下がってきました」。すると、若い医者は患者から彼女のほうへ目を向け、「君は、どこの学校の出身だい?」「はい、北海道美唄聖華高校です」「君の学校はすばらしい!」。その後二人は交際し、ほどなく結婚しました。
それを聞いた学生たちは、「すごい! もう絶対忘れない」「ゼンメイ、ネンチュウド!」と唱和します。まるで、ゼンメイとネンチュウドが玉の輿の切り札とでもいうような勢いです。しかし、若い医者も間違っています。「君の先生はすばらしい」が正しい。
恩田和世
私は教育学部の看護教員養成課程を出たため、看護教育が当たり前なのですが、就職したての頃は教育学部の看護教員養成は全国で2校の大学にしかありませんでした。そのため、多くの教員は臨床の看護師が都道府県教育委員会の試験を受け、特別免許状を取得してなった教員でした。元臨床看護師の授業は、それこそ臨場感溢れた生き生きとした授業で、学生たちも目を輝かせて聞いていました。
その教員たちが使う言葉のなかには、どう見ても今は違っていると思われるもの、あるいは私が学んだものとは違うものがしばしばありました。高等学校に勤務していましたので「高校」という字はよく使います。しかし、ワープロやパソコンで「こうこう」と打つと「口腔」が出てきます。ブラインドタッチでなかったころは、気をつけないと「美唄聖華口腔」になっていました。口腔、腹腔、胸腔は、コウコウ、フッコウ、キョウコウです。でも、あまりに現場に浸透しているため、辞書にも市民権を得ているものとして使用が許されているのが現状です。喘鳴をゼイメイと読んだり、粘稠度をネンチョウドと読んだり。先輩看護師たちに「それは違う」と言いづらく、自分の授業で正しく読んでもらうよう繰り返し注意しました。看護の授業の半分は国語の授業のようでした。
実習で看護計画を立てますが、「症状の増悪を防ぐ」というとき、「憎悪」という文字を書く学生がいました。その読みを問うと「ゾウオです」と悪びれもせず答えます。「では、これはなんと読みますか?」と「増悪」を見せると「ゾウオです」と答えました。「そうなんですね。これをゾウオと読んだので憎悪に変換されても気づかないのですね」と、憎悪と増悪の違いを説明しました。臨地実習指導では、そのような間違いをする学生にときどき出会います。そこで、学生たちに話します。
卒業生が就職してすぐ、医師の回診にたちあったときのこと。喘息発作で入院した子どものそばにいました。彼女は「薬の効果があらわれています。ゼンメイは少なくなり、痰のネンチュウドも下がってきました」。すると、若い医者は患者から彼女のほうへ目を向け、「君は、どこの学校の出身だい?」「はい、北海道美唄聖華高校です」「君の学校はすばらしい!」。その後二人は交際し、ほどなく結婚しました。
それを聞いた学生たちは、「すごい! もう絶対忘れない」「ゼンメイ、ネンチュウド!」と唱和します。まるで、ゼンメイとネンチュウドが玉の輿の切り札とでもいうような勢いです。しかし、若い医者も間違っています。「君の先生はすばらしい」が正しい。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん