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2017年02月05日

がじまん第351号


吉田朝啓

 毎晩、頭の下に当ててお世話になる枕。若い頃はどうでもいい寝具だったんだが、最近やたら気になりだして、ベットに入るたんびにその枕に手を当てて心の中で挨拶する。
 「お前さん、昨夜の疲れはとれたかな。重たい俺の頭を押し付けられても、文句ひとつ言わずに、やんわりと受け止めて、支えてくれた。どれどれ膨らみはどうか。硬くはないかな、今日もよろしくたのむぞ。」と、ご機嫌を伺うのだ。
 王侯貴族だったら、召し使いが宵のうちに整えて、大きくふっくらとした枕にしてくれるんだろうが、今朝起き出したまんま頭の形に陥没した枕というのが、庶民である私の枕である。くぼみにそのまま頭を沈ませて寝るのも癪だから、ひっくり返して、一応パーンと枕の形に戻してから頭を載せるのだが、枕の方の機嫌が悪いと、こちらの頭をすんなりと受け止めてくれない。
 枕の内部でしこりの様な塊が抵抗すると、こちらの頭も意地を張って折り合わない。首まで悲鳴を挙げて、当方に仲介を要請するようになる。泥酔した夜など、ええいままよとずぼらして、頭と枕の諍いを無視して夜を過ごすと、あくる朝が大変である。胸鎖乳突筋という首の総代表が突っ張ってストライキを起こす。借金もしてないのに、首が回らなくなる。枕の役割を軽視するとしっぺ返しがこのように怖い。
 そもそも、枕なるものは、一体なんのために誰が考案したものなのか。犬もサルも猫も、どんな動物も枕を当てて寝ている姿を見たことがない。これはやはり樹から降りて草原に歩み始めた人類が、草むらで寝るようになってから考え出した装置なのかもしれない。してみると、どんな利器よりも一番身近な文明の産物なのだ。疎んじてはいけない。恭しく真ん中にお迎えして、安らかな眠りをお願いするとしよう。
 グッドナイト。


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