2017年04月05日
がじまん第355号
女性合唱組曲「原爆の子百合子」を歌う
今年の一月に、春のさきがけコンサートが浦添てだこホールで開催され、その舞台に立った。主催は浦添の合唱団だが、半年前に私たちベルカント西原と中城への、友情出演の依頼があった。あの大きなホールに立てることは滅多になく、二つ返事で承諾した。
さて何を歌うかが問題だった。昨年四月、埼玉県熊谷市に演奏旅行に行った時、現地の合唱団が組曲「マリちゃんの歩いた夢」を見事に歌い上げていて、「我々もあのような曲を歌ってみたい」と先生に言うと、紹介してくれたのが「百合子」の歌である。半年あれば完全に歌い上げられるだろうと判断し、その曲に決定した。
生まれる前に、地球で初めての原爆を浴びた少女、百合子。岩国の町の小さな理髪店の、店の隅で一日中坐っていると歌い出す……詩を一読すると暗い重たい内容である。しかし繰り返し読むと、そんな環境の中で必死に生きている姿が励ましのエールであり、生きることが百合子の仕事だと分かる。
八月から、第四楽章からなる「百合子」の練習が始まった。作詞者、芝憲子さんはどんな方なのか気になっていたが、なんと現在沖縄に住んでおられるという。那覇市内でコーラスをやっておられ、練習時間を見計らって訪ねてみた。同年代の方で、詩の中にあるあの激しい言葉は何処から出てくるのだろうと目を疑うほど、物静かだった。にこやかに「まあ、あの古い歌を取り上げてくださるの、ありがとうございます」と。私は、ちゃっかり芝さんの出版された詩集にサインをお願いし、ついでに私の楽譜にもサインをもらった。
女性三部合唱団はメゾソプラノやアルトの音が微妙で難しい。練習を積むしかないので、隣町の中城の練習日にもお邪魔した。そのうち主催者の皆さんが聞いて、自分たちも一緒に歌いたいと、合同で歌うことになったのである。練習の甲斐あって、本番ではうまく歌えたと自負している。演奏はインターネットにも上がっていて、三月末で百五十回ほど再生されている。
手ごたえを感じた先生は、六月二十三日慰霊の日にもう一度「百合子」を歌う案を出した。その日に、百合子の歌を企画した沖縄出身の声楽家、大成京子さんを招き、先生とジョイントコンサートがあり、我々もゲスト出演で「百合子」を歌うのである。うるま市の芸術劇場を押さえてあり、うるま市の合唱団も加わって六十人になる予定である。大成さんのソロ、そして池辺晋一郎作曲の「一本のペンで」も歌われる。
いなみ悦
今年の一月に、春のさきがけコンサートが浦添てだこホールで開催され、その舞台に立った。主催は浦添の合唱団だが、半年前に私たちベルカント西原と中城への、友情出演の依頼があった。あの大きなホールに立てることは滅多になく、二つ返事で承諾した。
さて何を歌うかが問題だった。昨年四月、埼玉県熊谷市に演奏旅行に行った時、現地の合唱団が組曲「マリちゃんの歩いた夢」を見事に歌い上げていて、「我々もあのような曲を歌ってみたい」と先生に言うと、紹介してくれたのが「百合子」の歌である。半年あれば完全に歌い上げられるだろうと判断し、その曲に決定した。
生まれる前に、地球で初めての原爆を浴びた少女、百合子。岩国の町の小さな理髪店の、店の隅で一日中坐っていると歌い出す……詩を一読すると暗い重たい内容である。しかし繰り返し読むと、そんな環境の中で必死に生きている姿が励ましのエールであり、生きることが百合子の仕事だと分かる。
八月から、第四楽章からなる「百合子」の練習が始まった。作詞者、芝憲子さんはどんな方なのか気になっていたが、なんと現在沖縄に住んでおられるという。那覇市内でコーラスをやっておられ、練習時間を見計らって訪ねてみた。同年代の方で、詩の中にあるあの激しい言葉は何処から出てくるのだろうと目を疑うほど、物静かだった。にこやかに「まあ、あの古い歌を取り上げてくださるの、ありがとうございます」と。私は、ちゃっかり芝さんの出版された詩集にサインをお願いし、ついでに私の楽譜にもサインをもらった。
女性三部合唱団はメゾソプラノやアルトの音が微妙で難しい。練習を積むしかないので、隣町の中城の練習日にもお邪魔した。そのうち主催者の皆さんが聞いて、自分たちも一緒に歌いたいと、合同で歌うことになったのである。練習の甲斐あって、本番ではうまく歌えたと自負している。演奏はインターネットにも上がっていて、三月末で百五十回ほど再生されている。
手ごたえを感じた先生は、六月二十三日慰霊の日にもう一度「百合子」を歌う案を出した。その日に、百合子の歌を企画した沖縄出身の声楽家、大成京子さんを招き、先生とジョイントコンサートがあり、我々もゲスト出演で「百合子」を歌うのである。うるま市の芸術劇場を押さえてあり、うるま市の合唱団も加わって六十人になる予定である。大成さんのソロ、そして池辺晋一郎作曲の「一本のペンで」も歌われる。
Posted by 沖縄エッセイスト・クラブ会員 at 00:00
│会報がじまん